オフサイド・トリップBACK NUMBER
阿部勇樹、レスターの思い出と優勝。
「一番戸惑ったのは、名前のコール」
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byShigeki Yamamoto
posted2016/05/30 07:00
2010年の夏にレスターへ移籍し、ゴールも決めた阿部勇樹。彼の万能性はイングランドでも評価の対象だった。
英国で戸惑ったのは言葉よりも、試合中のある習慣。
――そもそも阿部選手が海外に行かれたのは、何が理由だったんですか?
阿部:当時はW杯の南ア大会に出場した直後で、日本人と外国人選手だと「個」の能力が違うなと実感していたので、そこを磨くために挑戦しようと思ったんです。
向こうに渡る時は「あんなでっかい連中を相手にして、当たり負けしないのか」なんていうことを言う人もいましたけど、実は球際の強さというのは、体のサイズにはあんまり関係ない。最初から当たるつもりでいけば、日本人でも勝てるんですよ。
また、イングランドのお客さんも、そういうプレーを求めているから、こっちも逃げられなくなる。きちんと体を張って戦うと、拍手もしてくれますしね。ああいう拍手は本当に気持ちいいんですよ。そうやって選手を乗せていくやりかたも面白いなと思います。
戸惑ったのは、試合が中断した時にファンが選手の名前をコールして、それに選手が手を振って応えるみたいな習慣。もしかすると、イングランドで一番戸惑ったのは、英語や生活よりあれかもしれませんね(笑)。
――他にサッカーに関して、カルチャーギャップや違いを感じたケースは?
阿部:いろいろありました。たとえば年末年始はまったく休みがなくて。元日からいきなり中1日とか、中2日でどんどん試合をする。
それなのにクリスマスの時は、12月の26日に試合があっても練習を休んだりするんですよ。エリクソン監督時代なんかは、クリスマス明けだということで、公式戦の前に監督やコーチがいきなりワインで乾杯してましたから。しかもベンチにいる控えの選手も、ちゃっかり一杯だけ飲んだりしていて。おいおい大丈夫かよみたいな(笑)。
格上にも格下にもぶれなかった戦い方。
――今シーズンのレスターに話を戻します。勝因はどこにあったと思います?
阿部:まずは、自分たちよりも強いチームであろうと下のチームであろうと、どこを相手にしても、戦い方がぶれなかったのは大きいと思います。
スタメンもそんなに変わらなかったし、むしろメンバーを固めた上で、途中からでてきた選手もきっちり仕事をするチームという印象だった。そういう形で勝った試合が、何回もありましたね。
戦術的には、真ん中のラインが結構しっかりしている印象がありました。それぞれのポジションに面白い選手が揃っていましたよね。そのメンバー構成と、カウンターを軸にした自分たちの戦い方が、まさにハマった感じはあります。
だからレスターはシーズンを通して大崩れしなかったし、強豪相手でも、苦しみながらでも勝ち点3をとることができた。それでさらに自信が深まっていったのかなと思います。