野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
来日3年目の阪神・ゴメスが別人に!
鉄人が主砲に伝授した4番打者の重み。
posted2016/03/04 10:30
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
NIKKAN SPORTS
当たり前なのだろうが、沖縄のラジオでしゃべるDJはみんな沖縄弁だ。誰も標準語を話さない。それが妙に不思議で、妙に心地いい。レンタカーで球場と宿舎を行き来し、いつもFMにチューナーを合わせる。三線(さんしん)で奏でる琉球民謡のスローテンポな音色が耳を伝う。番組が終わる間際だった。男女のDJが「にへーでーびる(ありがとうございます)」と声を合わせていた。この地に身を委ねるほど、キャンプ取材は早々と過ぎていく。
この1カ月、金本阪神の宜野座キャンプで、ひそかな楽しみがあった。シートノックのバックホーム。内野手が矢のような送球を見せる。一塁を守るマウロ・ゴメスの番だった。巨体を揺らし「オリャーッ!」と絶叫して投げる。ファンがドッと沸く。こんなヤツだったっけ? 昨季までの2年間、物静かな印象しかない助っ人が、この春はなぜなのか、がらりとイメージチェンジした。「自分も楽しもうと思ってね。みんな、声を出してやっている。楽しんで、リラックスしてやれているんだ」と笑う。
チームスローガンの「超変革」を謳い、若手の奮闘ぶりがクローズアップされるが、チームの勝敗に直結し、長丁場のシーズンを勝ち抜く生命線になるのは4番ゴメスだ。そういう観点では、沖縄で見せた主砲の言動は大きなプラス材料になるだろう。
金本監督が提案した早出特守で体重をキープ。
本当にゴメスは変わった。郷に入れば郷に従う。3年目でようやく日本になじむ。高代延博ヘッドコーチも「監督に『日本にいた2年間、何をしとったんや』と言われたみたい。監督自らが足腰を鍛える重要性を言ってくれている。それが一番、大きい」と冗談交じりに説明した。
変貌ぶりの象徴は早出特守だ。キャンプ中盤に入ると連日、通常メニュー前の朝からゴロを追い続けた。右に左にノックを振られ、ユニホームを泥だらけにして、大の字で寝転がる。阪神の助っ人では、これまで見られなかった光景だ。特別扱いし、どこかよそよそしかった。そんなもどかしさは、金本体制にはない。
仕掛け人は、やはり指揮官だった。平田勝男チーフ兼守備走塁コーチは「監督から『体重を減らすためにやらせたらどうか』ということだった。ゴメスも嫌な顔1つせずに『OK! OK!』と言うからね」と明かす。オフに6kg、シェイプアップしてキャンプインしたが、再び体重が増え始めていた。異例の特守はコンディション調整の一環だが、大リーグでもプレーしていた助っ人を納得させるのは容易ではないだろう。配慮するが、遠慮しない。そこには金本知憲監督の絶妙な手綱さばきがあった。