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来日3年目の阪神・ゴメスが別人に!
鉄人が主砲に伝授した4番打者の重み。 

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酒井俊作

酒井俊作Shunsaku Sakai

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2016/03/04 10:30

来日3年目の阪神・ゴメスが別人に!鉄人が主砲に伝授した4番打者の重み。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

金本監督の指導を熱心に聞くゴメス。隣には現・阪神打撃コーチ補佐のトーマス・オマリーコーチの姿も。

ゴメスの心を揺さぶった「魔法の言葉」。

 昨年10月、指揮官に就任早々、アプローチしたのがゴメスだった。ドミニカ共和国への帰国直前に、甲子園のクラブハウスで話し合いの場を設けた。虎番記者には「(体重を)量らせて帰らせた。いろいろ話して、ちゃんと『これ以上、増えたら知らんぞ』って」と説明し、スポーツ紙はダイエットの話題で持ちきりだったが、実は、もっと大切なことを伝えていた。

「『来年もチームに残ってもらう』ということを言われて、とにかくうれしかったんだ。あとは、打撃をきっちり教えてもらうことも約束してくれたからね」

 ゴメスは感謝する。まだ阪神と'16年の契約を結んでいなかった。身分は保障されず、不安だろう。そんな心を察して信頼する。熱烈なラブコールに腹をくくった。指揮官はさらに言い放つ。「秋季キャンプも行ってもらうから!」。機転の利いたジョークに大笑い。硬軟織り交ぜた「魔法の言葉」で、ハートをわしづかみにされた。

 唐突だが、船を想像してほしい。藤浪晋太郎がエンジンで、鳥谷敬や福留孝介が帆になって、横田慎太郎や陽川尚将が新しい風を吹かせる。でも、か細いマストでは大航海の荒波を乗り越えられない。揺るぎなき大黒柱があってこそ、前へと進んでいく。ゴメスが倒れては、新生阪神は立ちゆかなくなる。かつて、金本監督も不動の4番だった。「幹」の大切さを知る。だから、絶えず刺激的な言葉を投げかけて“後継者”の発奮をうながすのだろう。

今シーズンのライバルは「32歳の金本」!?

 キャンプ序盤もそうだった。阪神では恒例の監督と助っ人勢の食事会。鉄板焼きレストランに連れ立ち、指揮官は「若い選手にはガンガンやらせているけど君たちは違うから」とねぎらう。目の前でコックがジューシーな肉を焼いている。さらに言葉を継ぐ。「俺の現役時代の成績を超えてくれ。ゴメスは32歳の時、ヘイグは31歳の時をね」。誰もマネできない現役21年間の歩みだ。金本監督は31歳で、当時のキャリアハイとなる34本塁打を刻み、32歳でトリプルスリーを達成した。全盛期だった鉄人さながらに、バリバリやってくれとのメッセージだろう。

 米国でプレーしていたゴメスは金本監督の現役を知らない。就任が決まると、通訳に頼んで生涯成績を入手した。
「選手の時の成績を見せてもらって、すごいと思ったよ。つい最近まで活躍されていたのが、さらに素晴らしいし、本当に強く響くところだね」

 ライフレコードに裏打ちされた打撃技術の確かさも、同じスラッガーとして共感を呼んだ。2月28日の紅白戦では左翼に今季1号本塁打。さあ「32歳金本」に挑戦だ。時を超え、ロマンをくすぐる戦いが始まった。

【次ページ】 金本監督直伝のフルスイングでアーチを描く。

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