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サッカーの世界地図を変えたい米国。
注目のFIFA会長選挙とFBIの動き。
posted2016/02/26 17:00
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
FIFA via Getty Images
FIFAスキャンダルは、FIFA会長選挙を2日後に控えた2015年5月27日、アメリカ司法省がFIFA本部のあるチューリッヒとCONCACAF(北中米カリブ海連盟)本部のあるマイアミで14人を起訴・逮捕したことから始まった。
起訴された14人の中には、ジェフリー・ウェブCONCOCAF会長(FIFA副会長=いずれも当時)や、エドゥアルド・リ・コスタリカ協会会長(FIFA理事)、ジョゼマリア・マリン・ブラジル協会会長、ジャック・ワーナーCONCOCAF前会長、ニコラス・レオスCONMEBOL(南米連盟)前会長などが含まれ、彼らが24年にわたって不正に着服した資金は185億円以上にも及んでいた。
その衝撃は計り知れなく、会長選挙でヨルダンのアリ王子を破り、5選を果たしたゼップ・ブラッター会長は、わずか4日後に具体的な理由を明かさないまま辞任を表明。混乱に一層の拍車をかけたのだった。
これまでにもFIFAは、同様のスキャンダルに見舞われたことがあった。だがそのほとんどは、うやむやのうちに処理されている。とりわけ2001年に経営が破たんしたISL(アディダスと電通の共同出資によるマーケティング会社。ワールドカップのマーケティング権などを一手に扱っていた)を巡っては、ジョアン・アベランジェ(当時FIFA会長)とその娘婿であったリカルド・ティシェイラ(当時ブラジル協会会長)が、1200万ユーロの不正供与を受けながら、わずかな罰金刑で済んだのだった。もちろんFIFA内部では、何の処罰も受けていない。
だが、アメリカの追及は容赦がなかった。
続々と逮捕されていったFIFA関係者たち。
昨年9月14日にロレッタ・リンチ司法長官は、スイスのミカエル・ラウバー検事総長と合同記者会見を開いた。場所はFIFAのお膝元のチューリッヒ。秘密厳守で知られるスイスの銀行から、200近い口座の出入金記録を得たリンチは、今後もスイス司法当局と協力して追及の手を緩めずに捜査を進めていくことを高らかに宣言した。そして実際に12月には、ファンアンヘル・ナポウト(パラグアイ)、アルフレド・アウィト(ホンジュラス)のふたりの副会長を逮捕するなど、着々と成果をあげている。
一方、アメリカの法律事務所に頼るFIFAも、これまでの事なかれ主義、隠ぺい主義から一転して、不正を働いたものに厳しい処罰で臨んだ。そうしてブラッターとミシェル・プラティニUEFA会長が、200万スイスフランの不正授受(ふたりは口頭契約に基づく正当な報酬であるとして提訴)により、倫理委員会から8年間の活動停止処分を受け(後に6年に短縮)、ブラッターに次ぐNo.2であったジェローム・バルケ事務局長もブラジルワールドカップチケットの不正流用が発覚して解任されたうえに12年間の活動停止処分に処せられた。
FIFA本体を守り抜くための、トカゲの尻尾切りというには余りに大きい、自衛のための自浄作用をFIFAがようやく発揮したのだった。
では、なぜアメリカは、これほどまでに厳しくFIFAを追及するのか。