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200勝ペースで勝ち続けるデムーロ。
外国人騎手の強さの秘密を徹底解剖。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/01/30 08:00
以前のルメールとの対談では、田辺裕信や岩田康誠の名前を注目騎手としてあげていたデムーロ。
アドバンテージのために、リスクを恐れない。
彼ら3人に共通しているのは、勝利に近づくために、リスクを背負うのを恐れない、ということだ。
デムーロもルメールも、先行馬を確実につかまえられる位置につけるためなら、ポジションをとりに行って掛かるリスクを恐れない。ムーアは、最短コースを走るためなら前が塞がるリスクを恐れない。大きなアドバンテージを得るために、別のディスアドバンテージを食らう可能性のある手段を迷わず選ぶ、と言うべきか。
それに加え、隣の騎手と鐙がぶつかるほど密集した自国の競馬で磨かれた操作能力、ペース判断の巧みさ、勝負どころからゴールまでずっと追いどおしでも腰の浮かないスタミナ……などを生かし、「さすが」という騎乗を見せている。
さらに、武や横山典弘などがよく見せる、直線で手綱を持ち直して馬を反応させる「日本流」の技術も吸収して結果を出しつづけている。
またどの外国人騎手も、賞金の高い日本で稼ぎたいという強い思いを持っている。特に短期免許で来日した騎手は、限られた騎乗のなかで結果を出そうと必死になる。母国イタリアの競馬界が衰退したデムーロ、フランスで築いた地位を投げ打ってきたルメールは、JRAに移籍したことで退路を断った覚悟というか、凄みすら感じさせる。
馬は感情豊かな生き物であるから、そうした鞍上の思いに気持ちを共振させて走る、という側面もある。
それでもスタートなら、武豊が世界一速い。
と、褒めてばかりになったが、例えば、スタートの速さという点では、間違いなく武が世界一だ。やわらかく乗って折り合いをつける技術もしかり。鞭の持ち替えの速さ、つまり、馬をまっすぐ走らせる技術など、どこをとってもデムーロやルメール、ムーアらと互角以上だろう。
騎手は、半分アスリートで半分職人だと私は思っている。徒弟制度で伝統の技術をみっちり仕込み、時間をかけて一流の職人に仕上げる……ということにかけては、特にモノづくりの分野などでは、日本人の得意とするところだ。武は、兄弟子の河内洋や、同じ長身の騎手として活躍していた田原成貴といった先輩たちの騎乗を見て技術を盗み、数々の記録を打ち立てる名騎手になった。
何が言いたいかというと、日本人にもいい騎手はたくさんいる、ということだ。確かに外国人騎手、それも日本に乗りに来るのは母国で天下を獲った一流ばかりだから、上手くて当たり前なのだが、それを迎え撃つ日本勢だっていつまでもやられてばかりではないはずだ。