“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
U-23代表で異彩を放つサイドバック。
ついに南野拓実を捉えた室屋成の青春。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakuya Sugiyama
posted2016/01/22 07:00
前列左から2人目の「12番」が室屋。ついに、南野と同じ代表チームにまで駆け上がってきた。
高校時代に花開いた、サイドバックとしての才能。
入学後、中盤の選手だった彼の能力を「むしろサイドバックに合っている」と判断した黒田監督はコンバートを敢行。室屋は、サイドバックという新天地を与えられた事でその才能を一気に開花させる。
「高3のときにレギュラーが獲れて、選手権に出られれば良いと思っていた」という彼の人生は一変する。
2年で青森山田のレギュラーを掴むと、2011年U-17W杯メキシコ大会を控えたU-17日本代表にサプライズ選出。いきなりW杯の大舞台で南野との“共演”まで実現させてしまったのだ。
「ずっと、『何で俺がここにいるんだ??』と思いながら、U-17W杯でプレーしていました。自分の実感する成長と、実際に自分の置かれている立場に、物凄くギャップを感じていたんです。『こんなところにいていいのかな?』と常に思っていた。でも、そう思いながらも、前向きに、がむしゃらにこの環境でやっていく気持ちには常になれたし、やれないと思ったことは一度も無かった」
U-17W杯では、サイドバックとして4試合に出場し、ベスト8入りに大きく貢献した。高3時には清水エスパルスから獲得オファーが届くなど、高い評価を得るに至っていたが、「まだプロになるためには欠けているものが多すぎる。大学サッカーの名門でサイドバックを育てるのが上手い明治大に進んで、レベルアップしたい」と大学進学を決意した。
明大で1年時からレギュラーを獲得すると、当然のようにリオ五輪を目指す年代別代表にも名を連ね、ユニバーシアード日本代表として世界大会も経験することとなった。大学3年となった2015年には、4月にFC東京の特別指定選手となり、トップの練習に参加する経験も得られた。
「代表合宿に行っても、自分の力不足を感じる」
日に日に増していく注目度――。
大学生ゆえにその進路にも大きな注目が集まり、Jクラブの争奪戦は激しさを増して来ている。
しかし、その注目度とは裏腹に、FC東京ではベンチ入りすら果たせない日々が続いていた。五輪代表の選手とはいえ追加招集で呼ばれることが多く、今回の最終予選メンバー入りも、決して「当確」の状態とは言えないものだった。
「代表合宿に行っても、自分の力不足を感じる。そのせいで、気持ちの面で少し下向きになってしまっているのかもしれません」
この気持ちが、冒頭の言葉「注目度と能力のギャップ」につながっていた。
「注目度に内情が追いついていない存在」
この言葉を口に出してからの3カ月間。彼はこれまでと同じように、前だけを向いて邁進し続ける。