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松山英樹&石川遼のキャディ大対談!
「2人は同じ価値観を持っている」 

text by

桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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photograph byYoichi Katsuragawa

posted2016/01/01 10:30

松山英樹&石川遼のキャディ大対談!「2人は同じ価値観を持っている」<Number Web> photograph by Yoichi Katsuragawa

松山英樹のキャディを務める進藤さん(左)と、石川遼のキャディを務める佐藤さん(右)。

米ツアーでは、覚えておくべきことが日本の5倍!?

 さて、彼ら2人の米国での仕事は共同生活を送るスタッフとしての役割もさることながら、本業はやはりラウンドにおけるコースマネジメントのサポートである。試合前にコースを下調べし、攻め方を記したメモを作るプロキャディ。世界最高レベルの選手が集まるPGAツアーで過ごす日々は日米のコースのセッティングの違いを痛感する毎日である。

進藤「米ツアーのコースでは仕事量が変わった。必要な準備が増えた。コース内で覚えておくべきことが、日本での5倍はある」

佐藤「“盛った”ね、5倍って(笑)。でも……やっぱり、あるね、5倍。アメリカのコースに比べて、日本は単調なのかな。日本人がメジャーで成績が悪いのは、下手だからじゃないと思う。ただ、攻め方を知らない」

進藤「ホントそう思う。だからこそアメリカで活躍した青木功さん、伊澤利光さん、丸山茂樹さん、片山晋呉さん……先輩プロたちのすごさが改めて分かる。それに、PGAツアーのキャディって、コースをすごく細かく調べているよね。終わった瞬間に、コースでビールを飲んだり、サンダルで帰ったり、適当だなあ……なんて思うんですけど、仕事に関してはスゴイ。合理的なんですよね。メリハリがある」

佐藤「僕は、昨年最初に経験したメモリアルトーナメントのコース(オハイオ州ミュアフィールドビレッジ)は、すべての始まりだったこともあって印象深い。『2014年、英樹と大ちゃんはこんな大変なコースで勝ったのかよ』って。遼の調子がちょうど良くない時期だったこともあって『これは全敗(全試合で予選落ち)があるぞ』なんて思った。試合中に『ここの傾斜使うの?』みたいな驚きがいつもある。2015年のチェンバーズベイ(全米オープン)なんて……」

進藤「あれはもう……。オーガスタナショナル(マスターズ)、チェンバーズベイも飛ばし屋向きのコースではあると思うけれど、それ以上に“想像力”が求められるコースだよね」

佐藤「それこそ2015年のANAオープンで遼は全部ドライバーを持った(石川はパー3をのぞくほとんどのホールで、ティショットを1W一辺倒で放ち優勝した)。でもあれはPGAではなかなか通じない。『ドライバーを持って攻めきる』という“姿勢”は貫いても、実際に持てない。だって、落としどころにちょうどハザードがあったりするから」

進藤「コースもそうだけど、優秀なキャディは本当にスゴイ。チェンバーズベイではアダム・スコットと一緒で、キャディはスティーブ・ウィリアムス(タイガー・ウッズの元キャディ)だった。例えば9番ホール、アダムがドローボールでショットをしたら、風にも流されてピンよりも30ヤードくらい左に飛んだ。選手は心配そうな顔をしているのに、スティーブは『OK、パーフェクト』と言って、歩き出しちゃう。それがグリーンに行ったら、左側の傾斜で転がってきたボールがピンそばに付いていた。みんなが初めて経験するコースなのに……。コースの形状だけじゃなくて『どのくらいの打球の強さならば、このくらいの傾斜で返ってくる』というのまで分かっているんだよ」

佐藤「あれだけティグラウンドも振り回されたら混乱する」

進藤「15番のパー3は、3日目のピン位置が左奥だった。グリーンが硬くて、ボールが止まらない。英樹はドライバーの時みたいにティをかなり高くして、4番アイアンで誰もみたことのないようなハイボールを打ったけれど、バンカーにつかまった。でもテレビで観たら、スピースは普通に打っていた。グリーンにキャリーして普通ならオーバーしちゃうところを、奥から手前に戻る傾斜を使ってピンそばに」

佐藤「あ、やられた……と、こっちは思うよね。選手と一緒にテレビ見たくないもん。でもアメリカのコースは難しいだけじゃなくて、必ず抜け道があるのも特徴。日本はゴルフ場自体が狭くて、ピンの位置を変えるだけでは、難しさの限界まで到達してしまったのかな。だから難しくするためには、少しアンフェアなピンポジションにするしかないのが悲しい。

『パーを獲ることで必死。バーディなんか想像できない』というホールが日本には多い気がする。でもアメリカはいくら難しくても、バーディを獲れる可能性があるところにカップがある。いいショットが報われないことが日本では多いんだけど。逆も然りで、アメリカは悪いショットが必ず悪い結果につながる。『そんなところにミスをするなら、ちゃんと練習してきてください』ってゴルフ場から言われちゃう」

進藤「そういう意味でも情報はすごく大事だよね」

キャディでも強く感じる“アウェー感”。

佐藤「アメリカに行った最初の頃はキャディの中でも“アウェー感”ってなかった?」

進藤「すごくある。こっちを『なんだ? この新入り』と思っているヤツも、残念だけどいる。正直、人種差別を感じたこともある。でもそんなときは、『絶対にコイツとの壁を取り払ってやる』なんていう、ファイティングスピリッツみたいな気持ちが湧いてくる」

佐藤「オーストラリア出身のキャディさんが、米国人の間に馴染めないという話を聞いたことがあるけれど、日本人だって同じだと思う。それに米ツアーのキャディはみんなプライドが高い。自分の力で、選手の成績を良くしてやるって思っているし、自分たちの仕事をちゃんと確立している。だから舐められたくないって思うのかな」

進藤「プライドは間違いなく高いね。でも考えてみれば、同じ職場で同じ仕事をやっている。ぶつかって行けば壁もなくなるんじゃないかって。相手にされなくても、“営業スマイル”を続ける。そこから打ち解けて仲良くなるパターンも何回もあったよ」

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