Number Do ExBACK NUMBER
マラソン世界新記録
2時間2分22秒が出る日は遠くない。
posted2015/11/12 10:00
text by
小川勝Masaru Ogawa
photograph by
AFLO
好評発売中のNumber Do「ランの未来学。」より、記事の一部を公開します。
男子マラソンは今、陸上競技の全種目の中で、最も活性化された状況にある。2008年以来、過去7年間で4度も世界記録が更新されているのである。これは、驚くべき状況だ。なぜなら近年、陸上競技の世界記録は、なかなか更新されなくなっているからだ。
五輪種目になっている男女合計47種目の中で、世界記録が10年以上出ていない種目が29種目ある。たびたび記録が出ているのは、女子のハンマー投や3000m障害といった歴史の浅い種目だ。古くからの種目で、過去7年間で4度の世界記録という男子マラソンは、まったく例外的な状況だ。
世界歴代10傑の記録はすべて'08年以降のもの。
近年の男子マラソンがどれくらい活性化しているか、世界歴代10傑の記録を見ると、よく分かる。'15年9月10日時点のランキングを見ると、男子マラソンは、世界歴代10傑の記録が、すべて'08年以降の記録になっているのである。男子マラソン以外で、世界歴代10傑の記録がすべて最近10年('05年9月以降)の記録になっている種目は、歴史の浅い女子のハンマー投と3000m障害しかない。女子のハンマー投が五輪種目になったのは'00年のシドニー五輪から、3000m障害は'08年の北京五輪からだ。この2種目の世界歴代10傑が、新しい記録ばかりで埋め尽くされているのは当然のことである。
だが男子マラソンは、1896年の第1回アテネ五輪から行われている種目だ。約120年の歴史を持つ種目が、現在もなお、日進月歩の向上を見せているというのは、興味深い事実である。
同じマラソンでも、女子マラソンのほうは、'03年に記録されたポーラ・ラドクリフ(英国)の2時間15分25秒が、12年間破られていない。女子マラソンは五輪種目になったのが1984年のロサンゼルス五輪で、まだ30年ほどの歴史しかない。男子より歴史はずっと浅いのだから、むしろ女子のほうで、ハイレベルな記録が続々出ていておかしくないはずなのだが、実際にはそうなっていないのである。
加えて――ここが重要な点だと思うのだが――男子マラソンは、単に記録が伸びているだけではない。グラフを見ても分かるように、過去10年間に出た4回の世界記録を、すべて違う選手が出しているのである。この点が、男子マラソンの活性化をよく表している。飛び抜けた選手が、1人で記録を更新しているのでは、ないのである。