サッカーの尻尾BACK NUMBER
憧れの地カンプノウに立った乾貴士。
痛感した、無力感と目指すべき場所。
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byDaisuke Nakashima
posted2015/10/26 18:20
今季からリーガに移籍し、チームでは主力の座を固めている乾だったがバルセロナの前には……。
乾「アウベスはボールを取れる気がしなかった」
ネイマールからスアレスへ。
エイバルが最も警戒していた形から2点を奪われ、勝負は決まった。
このふたりに象徴される圧倒的な個の力は、組織力に関しては一定の評価を得ているエイバルにはないものだ。
「ネイマールがひとりで打開したり、スアレスがああやってゴール前でひとりで打開できる。スアレスは得点感覚というか、ゴール前での落ち着きは本当にすごかった。スアレス、ネイマール、ラキティッチ、ブスケッツもそう」
メンディリバル監督に求められていたのは、対面の右SBダニエウ・アウベスと、前方の右CBピケへの守備だ。
しかしマッチアップの相手アウベスは距離を詰めても少しも慌てずに、冷静沈着なプレーでさらりとかわしていく。味方とのワンツーで縦のスペースへ。ふわりと頭の上を抜いたシーンもあった。
「ダニ・アウベスはボールを取れる気がしなかった。あれだけ右サイドバックでキープできれば強いですよね」と、乾は感心するかのように言う。
バルサが、目指すべきところを示してくれた。
しかしこれら攻撃面におけるバルサの凄みは、ある程度分かっていたことでもある。バルサの試合は毎試合かかさずチェックしている。むしろこの試合で乾が実感したのは、ネイマールやスアレスの個人技だけではない、バルサの組織としての守備力、チームとしての完成度にあった。
「ひとりで打開できることに加えて、チームとしてもしっかり機能している。ボールを取られた後の切り替えが本当に早くて、誰もさぼる選手がいない。あれだけ上手い選手が、あれだけ守備をがんばれば、そりゃ強いですよね。誰もが上手いというか、誰もがボールを持てて、しっかり繋げて。ああいうサッカーができれば、日本もあれを目指せば、強くなっていくと思う。まあ、なかなかできないですけど……。目指すのはああいうところなのかなと思います」
エイバルは勝ち点を得ることはできなかった。乾も、得点やアシストという結果を出すことはなかった。しかしこの試合から感じたこと、それはひとつの財産となって、体の中にしっかりと刻み込まれたはずだ。
「誰も下は向いてないし、次のホームで、しっかり、連敗だけはしないように」
バルサが示した、目指すべきところ。それを指標に、乾は再びスペインの地を走ろうとしている。