サッカーの尻尾BACK NUMBER
憧れの地カンプノウに立った乾貴士。
痛感した、無力感と目指すべき場所。
posted2015/10/26 18:20
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph by
Daisuke Nakashima
感じたのは無力感に近いものだった。
カンプノウで1-3で敗れたバルサ戦の直後、乾貴士は開口一番こう話している。
「悔しかったですし、何もできなかった。自分の力のなさをあらためて実感しました。自分の今のレベルが分かったというか……」
試合は予想外の展開でスタートした。カンプノウで、格下エイバルがバルサ相手に先制したのだ。
乾からボルハを経由してベルディへ。ベルディの前方への果敢なパスを、ケコがマスチェラーノと競り合いながら足先であわせた。GKブラーボがはじいたボールをボルハが押し込む。5試合連続6点目、エースの得点に、9万を飲み込む巨大空間に居合わせた数十人のエイバルサポーターが沸いた。
「得点を取るとしたら、ああいう形しかないと思っていました」と乾。
チームとして狙っていたとおりの、ボール奪取後に極力時間をかけない、縦に速い攻撃だった。
先制されても慌てない、バルサの「別格」。
しかしその後エイバルは数度チャンスこそ作ったものの、決められず。バルサはそれ以上に決定機を作り続け、ウルグアイ人がその内の3回でネットを揺らした。
「先制したのは僕たちにとってはラッキーだった。でもバルサにとっては何の問題もなかったんだなと」
先制されたにもかかわらず、慌てることなくパスをつなぎ、崩してくるバルサには、ある種の余裕さえあった。初めてカンプノウのピッチに立った乾貴士の目に映ったのは、次元が違うバルサの姿だった。
乾は子供の頃からバルサが大好きだった。いつかカンプノウでバルサとサッカーをしたい、そんな思いももっていた。しかし憧れのピッチに立ったという感慨は、直後に体感するバルサの凄みにあっさりとかき消された。
「もちろん入った時はすごい雰囲気でしたし、このピッチですごい試合が今まで何度も行われてきたんだなとは思いましたけど、それ以上にバルサの強さ、凄さが上回って……。本当にいいサッカーをするなあと思ってました」