プレミアリーグの時間BACK NUMBER
“クロップマニア”の市民が熱狂。
たった2戦でリバプールを完全掌握!?
posted2015/10/25 10:50
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
AFLO
リバプールでの初陣となった前節トッテナム戦(0-0)、自軍選手のプレッシングに頭上で手を叩き、タックルやブロックにガッツポーズを見せていたユルゲン・クロップ。しかし、クロップ体制を象徴するシーンを挙げれば終盤の選手交代時になるだろう。
交代を告げられた選手はアダム・ララーナ。怪我が多く、出場1時間前後が限界とも言われるようになっていたMFに早めの交代は珍しくない。だが今回は、スタミナ抜群のジェイムズ・ミルナーと比べても見劣りのしないハードワークを80分間続けた末、新監督の腕の中に倒れ込むようにピッチを下りた。昨夏のリバプール入り以来、最も「汗」が光ったララーナの先発出場だった。
クロップ自身のプレミアリーグ適応は、前週の10月8日に就任が決まった当初から問題ないと見られていた。当人が「ヘビーメタル・フットボール」と表現する攻守に激しく速いサッカーは、ラインを押し上げたコンパクトな陣形や、狭いエリアで要求される高い技術レベルといった細かい違いはあるものの、攻守が目まぐるしく入れ替わる中でカウンターが効果的に活用されるプレミアのピッチ上では、異質なスタイルではない。
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敵に回せば厄介なメディアも、そつのない英語力とユーモアを交えた語り口で味方に付けることができるに違いない。イングランドでは、ボルシア・ドルトムントを率いてCLでアーセナルと対戦した2011年当時から「プレミア向きの監督」と言われてもいた。今回の就任に伴うリバプール市内の熱狂を「ビートルマニア」ならぬ“クロップマニア”の誕生と評する4年前から、報道陣自身がクロップのファンだったわけだ。
前監督のスタイルは、実はボール支配重視。
但し、チームのクロップ適応には一抹の不安があった。前監督のブレンダン・ロジャーズがリバプールに持ち込んだスタイルは、攻撃志向という大枠はクロップの志向性と一致していても、その中身はアーセナルに通じるボール支配重視。徹底的にパスをつなぐビルドアップでは“遅攻”も良しとされてきた。
筆者は、リバプールがストーク戦惨敗(1-6)で昨季を終えた時点でも監督交代は得策ではないと唱えた口だが、そこには、根本的な再建で、ロジャーズが取り組んだ3年間のチーム改革努力が水の泡と化してしまうという考えがあった。同時に、早期トップ4復帰という無理難題をも抱える後任には、奇跡を起こせる「ミラクルワーカー」を見つけるしかないと思われた。