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ビアンキ逝去。セナ以来のF1事故死に
残された者がすべきことを考える。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAFLO
posted2015/07/25 10:50
フェラーリ・ドライバ・アカデミーを経てマルシャからF1参戦して2年目。全34レースに出走し、最高位は2014年モナコの9位。それが唯一F1で獲得した2ポイントとなった。
'94年のセナから21年間死者は出ていなかった。
しかし、それからビアンキの脳はほとんど改善が見られない状態が続く。
今年の5月には、父親のフィリップが「死を受け入れる覚悟が必要かもしれない」というコメントを地元メディアに語っていた。
そして事故から9カ月が経過した7月17日、ビアンキは故郷ニースの病院で帰らぬ人となった。
享年25。来月の3日には26歳を迎えるはずだった。
F1グランプリ期間中の事故による死者は、'94年のアイルトン・セナ以来、21年ぶりの悲劇である。
残された者にできるのは、検証と対策しかない。
セナの死後、F1の安全性は大きく向上した。コクピットを守るサバイバルセルは強化され、頭部がむき出しにならないようコクピットの両サイドにヘッドプロテクターを設けた。
さらに2000年代に入ってからはHANSと呼ばれる救命デバイスによって頭部と頚椎がそれまで以上の強度で守られるようになった。
この21年間、セナが命を落とした事故よりも激しいクラッシュがなかったわけではないが、それでも誰ひとり命を落とさなかったのは、こうした安全性の向上があったからにほかならない。
だが、コクピットが完全に閉鎖されていないフォーミュラカーに乗って、レーシングドライバーたちが時速300km以上で競争を繰り広げるF1において、安全性に関して「絶対」という言葉はない。
そんな明白な事実を、今回のビアンキの死によって再認識させられた。
それでも、21年前がそうであったように、残された者たちができることは、ただ悲しみに暮れたり事故を恨んでパニックになったりするのではなく、事故を冷静に検証し、そこに改善の余地があれば対策を施すこと。
それが犠牲者への最大の敬意である。