ブンデスリーガ蹴球白書BACK NUMBER
ドイツでの最終戦は大団円になるか。
クロップが母国と日本人に残した物。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2015/05/08 10:30
ドイツでの香川真司のサクセスストーリーは、常にクロップとの二人三脚だった。彼が去ったあと、ドルトムントは果たしてどんなチームになるのだろうか。
実は戦術的なキーパーソンはコーチ?
ドルトムントの代名詞となった、ボールを奪われたら直後からプレスをかけるというカウンター・プレッシング(ドイツ語では“ゲーゲン・プレッシング”と言うが、英語訳のこの言葉の方が、日本人にとっては理解しやすいかもしれない)などが有名になり、クロップはまず戦術家として評価を高めた。
しかしドルトムントの練習や試合中の動きを見ていれば、戦術面のカギを握るのがクロップではないことがわかるはずだ。例えば試合中にフォーメーションを変更するときが象徴的だ。タッチライン沿いに立つクロップのもとへコーチのブバチが近づき、事細かに話をする。そして、それを2人がかりでピッチにいる選手たちに伝えていく。
あるいは練習の時もそうだ。戦術面についてはブバチが細かい指示をする。クロップはじっと全体に目を光らせて、指示を守っていない選手、集中力を切らせている選手などに声をかける。
クロップはメディアからブバチへの取材を基本的に許しておらず、ブバチ本人の戦術についてはベールに包まれている。確かなことは、誰が考案したにせよ、斬新な戦術を選手たちに伝え、チームに植えつけたのはクロップの言葉だったということだ。
香川「監督は団結についての話が多いんですよ」
あるいはこんなこともあった。2009年の第7節、ホームで行なわれたシャルケとのダービーで敗れたあとのことだ。試合内容はそれほど悪くはなかったものの、この時点でリーグ戦は1勝3分3敗、順調な出だしとはいえない状況だった。コーチ陣とともに、チームの状態を上向けるために必要なのは運動量だと分析したクロップは、選手たちにこう話した。
「ウインターブレイクまでのリーグ戦10試合のすべてで、チームの走行距離を118km以上にするんだ。そうすれば予定している冬休みを3日間伸ばしてやるぞ!」
チームに足りないものを端的な言葉で表現し、若い選手たちがモチベーションを高められるような目標を設定する。そして、選手たちはそれを忠実に実行した。この働きかけがチームの運動量を増やし、それが後のスタイルの礎を築くことになった。
2010年7月に加入した香川が、加入して間もない時期にオーストリアで行なわれたキャンプでしていた発言も、今となっては興味深い。
「監督のミーティングでは意外と戦術的な話ではなくて、チームがどうやって団結するかについての話が多いんですよ」