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カナダが用意していた「対錦織コート」。
相手の策を逆手に取った2勝の内実。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiroshi Sato
posted2015/03/10 11:15
対戦後のラオニッチは「互いにチャンスはあったと思う。ギリギリの接戦だったはずだ」とコメント。
3月6日から国別対抗戦、デビスカップが世界各地で開催された。16カ国からなるワールドグループに属する日本は1回戦でカナダと当たり、試合はアウェーのバンクーバーで行なわれた。3日間かけてシングルスとダブルス計5試合で争う団体戦は、3日目の第1試合を終えて2勝2敗となり、勝負は最終シングルスにもつれたが、添田豪がバセク・ポシュピシルに屈し、通算2勝3敗で日本の敗退が決まった。
錦織は敵を圧倒し、他の日本人選手は敵に圧倒された。
両国ともトップ10プレーヤーをエースに押し立てるチーム。日本の大黒柱が世界ランキング4位の錦織圭なら、カナダの主力は同6位のミロシュ・ラオニッチ(ランキングは開催時、以下同じ)だ。
最終日の直接対決では錦織が5セットでラオニッチを下したが、日本の2勝はどちらも錦織が挙げたもので、ほかの選手は勝ち星を稼ぐことができなかった。初日のシングルスでは、世界ランク85位の伊藤竜馬がラオニッチに完敗。最終日は伊藤に代えて86位の添田を起用したが、62位のポシュピシルに歯が立たなかった。
結局、競り負けたダブルスを含め、選手層の厚さが勝敗を分ける結果となった。カナダはこれで世界8強入りし、一方の日本は9月に行なわれるワールドグループ入れ替え戦に回ることになった。
勝ったカナダのエースは錦織に屈辱を感じていた。
「テニスのワールドカップ」とも称されるデ杯。チームの勝ち負けが何より重いのは当然だが、この対戦でもっとも強いインパクトを与えた選手を1人選ぶなら、敗退した日本の錦織だろう。
エース同士の対決に敗れたラオニッチは試合直後、爽やかな笑顔で錦織を称えたが、会見場では硬い表情のままだった。第1セットを奪いながら試合の主導権を手放してしまったことについて聞かれると、こう答えた。
「流れはすぐに変わるものだ。特に速いコートではそうだ。自分のプレーに悪いところはなかった」
いつもは丁寧に、言葉を選んで話すラオニッチにしては、ぶっきらぼうな返答が続いた。自国開催、しかも2勝1敗で王手のかかった大事な試合に敗れ、エースは責任を痛感していたのだろう。そして彼は、ライバルと意識する錦織に喫した敗戦の悔しさを、懸命に押し殺していたに違いない。