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カナダが用意していた「対錦織コート」。
相手の策を逆手に取った2勝の内実。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiroshi Sato
posted2015/03/10 11:15
対戦後のラオニッチは「互いにチャンスはあったと思う。ギリギリの接戦だったはずだ」とコメント。
錦織に追いついたと思ったラオニッチだったが……。
1つ年上、25歳の錦織は、ラオニッチにとって10代前半から常に意識してきた存在だ。
世界ランキング・トップ10入りはラオニッチが早かったが、これまでの対戦成績はラオニッチの2勝4敗。昨年のウィンブルドンでようやく初勝利を挙げ、今年は1月の豪州ブリスベンでも勝った。世界ランキングでも、昨年の活躍で5位に浮上した錦織の背後にピタリと付けている。しかし、この敗戦でラオニッチは、錦織の背中がまた遠ざかったように感じたのではないか。
スコアを見れば、5セットにもつれる熱戦で、獲得ポイントも錦織128、ラオニッチ131と敗者が上回った。
しかし、これは錦織が支配した試合だった。
ラオニッチの自信を砕くかのような錦織のプレー。
舞台となったコートは、コンクリートの硬い土台に樹脂性のサーフェスを敷いたもの。高速サーブを武器にするラオニッチに有利なようにしつらえ、実際、日本の植田実監督を「思ったよりかなり(球足が)速かった」と嘆かせた。ラオニッチは29本のエースをたたき込み、ファーストサーブが入ると86%の高確率でポイントを奪った。
ところが、錦織はラオニッチのサービスゲームを4度ブレーク。ラオニッチのセカンドサーブでの得点率は46%と低迷し、錦織の55%を大きく下回った。
ストローク戦でも、錦織の速いボールにラオニッチが差し込まれる場面が目立った。改良されたはずのバックハンドは特にアラが目立った。錦織の放つ速射砲に、196cmの巨漢はついていけない。苦しまぎれにスライスでつないでも、最後は崩された。
昨年のウィンブルドンや全米では、ストローク戦でも錦織によく対抗したが、その自信が打ち砕かれてもおかしくないようなベースラインでの攻防だった。
「ストロークでフォアに回り込むのが彼のプレースタイルなので、それができないこの速いサーフェスは、自分に有利だったのかもしれない」
錦織は淡々と振り返った。
確かに……試合展開を見る限り、サーフェスとの相性は錦織に味方しているようだった。