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なぜ浦和は同じ負け方を繰り返す?
最古株・鈴木啓太に見えた“壁”。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byAtsushi Tokumaru/AFLO
posted2015/02/27 10:35
試合終了後、無念の表情で立ち尽くした鈴木。ペトロヴィッチ監督は「試合の内容を見れば、引き分けが妥当だ。負けたことは非常に残念」とコメントしている。
誰も鈴木を責めなかった。鈴木自身以外は……。
症状を抑える薬を服用することで改善を試みたが、なかなか鈴木に適応する薬が見つからなかった。
「薬を飲んで、練習に参加してみる。しばらくすると脈が乱れ、練習ができなくなる。いくつかの薬を試してみたけれど、ガンバ戦も鳥栖戦も試合に出られる状態じゃなかった。チームが苦しんでいるのに、何もできない自分が不甲斐なかった」
しかし、鳥栖戦後に服用した薬が症状を抑えた。
すべての練習に参加し終えた鈴木にペトロヴィッチ監督が訊いた。「名古屋戦、行けそうか?」と。鈴木は答えた。「5分か10分くらいなら」と。それでも指揮官は鈴木をベンチメンバーに選んだ。そして、同点に追いつかれたあと、鈴木をピッチへ送りこんだ。攻守のバランスを保ち、ゲームを落ち着かせ、そして、追加点を狙う。与えられた任務は明確だった。そして、それは鈴木がそのキャリアの中で積み重ねてきた“いつもの仕事”だった。
しかし「勝たなければ優勝はできない」という現実にリスクを冒してでも、前へボールを運びたいと考えて出したパスが、引っかかってしまったのだった。
鈴木のパスミスが無ければ、優勝できたわけでもないだろう。サッカーにミスはつきものだ。決められたはずのゴールもあれば、失わずにすんだだろう勝ち点もある。1シーズン戦った集大成が反映するのが順位。鈴木が拾った勝ち点だってあるはずだ。だから、監督もチームメイトも、そしてサポーターも誰一人、鈴木を責める者はいなかった。
それでも鈴木は、自分を責めずにはいられなかった。
捲土重来を期し、充実した状態で水原戦に臨む。
1月中旬から新シーズンに向けたキャンプがスタート。
心臓にカテーテルを入れる手術は回避し、投薬で不整脈を抑えることを選択した鈴木は、順調に調整を重ねていた。トップ下だった柏木のボランチ起用や青木の成長もある。
「スタメンとして試合に出られるかわからない。アタッカーの補強もあったし、今季はベンチ入りすら危ないかもしれないよ」
水原戦を前に明るく話す鈴木の姿には悲壮感も焦燥感もなく、肩に力のはいった様子もなかった。どんな現実であっても、それを受け入れ、そして打開してきた経験。状況や立場を認識し、行動を選択できる知恵。柔軟でしなやかでありながら、強靭な芯が感じられた。
16回目の開幕を彼は静かに待っていた。
「捲土重来」という想いを秘めながら。