プロ野球亭日乗BACK NUMBER
前田健太のメジャー挑戦を阻むもの。
新ポスティングに早くも「弊害」が。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2014/10/21 10:40
5年連続二桁勝利を達成し、WHIPはリーグ最高を記録した広島、不動のエース・前田健太。現在26歳、メジャーに挑戦するなら早いに越したことはないが……。
球団にとって、「売り時」という発想がなくなった。
しかし、である。
田中の交渉過程で新たな問題が表面化したのも見逃せないことだった。
それは選手の移籍を容認する球団サイドのメリットが、著しく小さくなったということだった。
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この点に関しては新ポスティング制度が発効した直後に、このコラムでも指摘している。
改めて要点を挙げれば、新制度では球団はいつ選手を送り出しても、見返りの移籍金は変わらない。そのためフリーエージェントの資格を得る直前まで、移籍を認めないことになるということだった。
田中はプロ7年目の昨年、メジャー移籍を表明した。海外FA権を手にするまでにはまだ2年の期間があったが、シーズン24連勝という大記録を引っさげての移籍交渉は、考えられる最高の売り時だったわけである。
ところがポスティングを認めた楽天にとっては、その売り時がなくなった。旧制度なら日本ハムからテキサス・レンジャーズに移籍したダルビッシュ有投手の移籍金5170万3411ドルを上回る移籍金もウワサされたが、新システムで楽天に入ってきたのは規定の上限額の2000万ドルだけだったのだ。
そのため田中の移籍の際も、楽天球団及び本社の中では移籍を容認すべきか、それとも残留させるべきかで、かなり激しい議論があったと言われている。
前田健太のメジャー挑戦に球団も理解を示していたが。
いつ移籍を認めても、球団に入ってくる移籍金は変わらない。ならばできるだけ引き止めてギリギリに容認する。これは球団にとってはしごく合理的な対応といえるだろう。
そうして昨年の田中の騒動の陰で見過ごされてきたこの問題が、改めて表出したのが1年後の前田のケースだった。
かねてからメジャー挑戦の夢を語っていた前田は、昨オフに改めてポスティングシステムを使っての米球界挑戦を表明した。
「自分がいいときに挑戦したいという思いはある」
こう語って球団にこのオフの移籍容認を訴え、球団も一定の理解を示していた。