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前田健太のメジャー挑戦を阻むもの。
新ポスティングに早くも「弊害」が。
posted2014/10/21 10:40
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Nanae Suzuki
もしポスティング制度が選手の「夢」を実現するシステムだとすれば、その「夢」は大きく遠のくことになるのかもしれない。
広島・前田健太投手の今オフのメジャー移籍が極めて難しい状況になっている。その裏にあるのが、昨オフに新たに日米間で締結された新ポスティングシステムの“裏の弊害”である。
昨オフ、すったもんだの末に日米間で締結された新ポスティングシステム。これまでは獲得希望球団による入札制で、最高額の入札金を提示した球団が移籍希望の選手との独占交渉権を得るというものだった。しかし、新しい制度では最高入札額を提示した球団に交渉権を与えるのは同じだが、入札金の上限を2000万ドル(約21億円)に設定。複数球団が上限額を提示した場合には、選手は全球団と入団交渉できるというものになった。
昨年、楽天からメジャー挑戦を表明した田中将大投手が、この新システムを使って複数球団と交渉。その結果、7年総額1億5500万ドル(約161億円)という超破格の条件でニューヨーク・ヤンキース入りを果たしたのは記憶に新しいところだ。
田中将大の超大型契約で、新制度に歓迎の声も。
最高入札額を投じた球団に独占交渉権を与えた旧システムでは、移籍を希望する選手には球団を選ぶ選択権はなかった。極端に言えば、相手の提示する条件でメジャー移籍という「夢」を実現するのか、それとも移籍を諦めるのかという二者択一しかなかったのだ。もし移籍を諦めれば、実働9年で海外フリーエージェントの権利を手にするまで我慢するしか手段はなかったのである。
しかし、新制度では球団が移籍を容認すれば、選手は2000万ドルの入札金を提示した複数球団と交渉して、納得できる条件を引き出すことができるようになった。
昨年の田中のとんでもない契約条件も、この新システムだからこそのものだったのは言うまでもないところだ。
「選手が複数球団と直接交渉できる制度になったことを嬉しく思う」
日米間で新制度が締結されたときに、日本プロ野球労組・選手会の松原徹事務局長は、こうコメントして新制度を評価。また選手の間からも、この空前絶後といえる田中の契約から、新制度を歓迎する声が出ていたのは確かだった。