プロ野球亭日乗BACK NUMBER
巨人・大田泰示を覚醒させたもの。
松井秀喜直伝、大型打者の「距離感」。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/10/03 10:50
過去5シーズンで出場は59試合、本塁打は2本だけだったが、今季終盤、立て続けに2本塁打を放った。「未完の大器」と呼ばれてきた背番号44は飛躍を遂げられるか。
大田に本当に“覚醒”の時は訪れたのか。
そしてシーズン終盤、ついに大田の打棒は火を噴いた。
果たして大田は、松井直伝のこの距離感をしっかりとつかんだのだろうか……。
答えを言うとすれば、それはまだまだ最初の一歩を踏み出した、というぐらいの段階なのだと思う。
この2週間、大田が打った球は緩い抜け気味の変化球が多い。
それは緩い球にも突っ込まずに頭を残して、きちっとボールとの距離をとって打てている結果だった。一方で、力のある速球に詰まり、高速スライダーには身体が開いてとんでもない空振りを見せる場面がまだまだある。
それが今の大田である。
原監督が現役時代に目指した打撃を、大田も追う。
新聞を賑わせたように“覚醒”とまではいっていない。ただ、この1年で確実に成長の跡は見えている。
「進歩はしていると思う。確実にレベルアップも出来ている。ただ今はまだホップ、ステップ、ジャンプのホップの段階。泰示“ちゃん”から、“くん”にはなった。ただ、その次は“さん”と呼ばれないとね。最後は“様”か“殿”か……」
巨人の原辰徳監督がユーモアを交えてこう評したコメントは、大田の現段階を正確に指し示している。
原監督は現役時代、目指す打撃の一つとして、こんなことを言っている。
「右方向にしっかり“引っ張った”打球を打ちたい」
それはポイントを近づけながらもボールとしっかり距離をとって打ちたいということだった。
まさに大田が目指すべき打撃がそこにある。
天性の飛距離を持つ長距離打者が「右へ引っ張る」感覚を手に入れたら、おそらくとんでもないスラッガーが誕生する。
だからこそ、巨人は大田のトレード打診を頑なに断ってきたのである。