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巨人・大田泰示を覚醒させたもの。
松井秀喜直伝、大型打者の「距離感」。
posted2014/10/03 10:50
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
NIKKAN SPORTS
ここ数年、オフになるとトレードの引き合いが殺到していた選手がいる。
「出す気はありますか?」
その選手の所属球団には毎年、他チームの編成担当からの問い合わせが何件もあるのだという。しかし、チームは頑なに「出す気はありません」と断り続け、じっと「覚醒」を待ち続けてきた。
その選手とは、巨人の大田泰示外野手である。
福山市立城南中学時代に、当時評論家をしていた巨人・原辰徳監督の野球教室に参加。そこで原監督が才能に注目したのをきっかけに、同監督の母校である神奈川・東海大相模高校に進学した。期待通り、高校通算65本塁打と長距離砲としての才能を発揮して、2008年のドラフトで巨人に1位指名されて入団した。
松井の後継者という期待を背負わされ、背番号は「55」。しかし、その後は未完の大器という評価を卒業できないままに、今季からは背番号も「44」へと変更された。
今年9月、新聞に躍った「覚醒」の文字。
その大田を巡って、ついに新聞各紙に「覚醒」の文字が躍ったのは、優勝争いも終盤に入った9月の中旬過ぎだった。
広島に引導を渡した9月15日からの3連戦。1勝1敗で迎えた3戦目の8回のことだ。1点を追う無死一塁で代打に起用されると、大田は右腕の中田廉から左越えに逆転2ランを放った。
「8番・センター」で先発起用された23日の中日戦では、第1打席にベテラン左腕の山本昌から左前安打を放つと、2打席目にも左翼線にタイムリー二塁打。そして第3打席では2番手の祖父江大輔からセンターへ特大の2号2ランと暴れまくった。途中出場した25日の中日戦でも、8回2死二、三塁の場面で右サイドスローの又吉克樹から左中間を破る2点二塁打を放っている。
優勝が決まった翌日のDeNA戦では、主力選手を休養させたこともあり、ついに巨人軍第81代の「4番」に起用され、期待に応える2点タイムリーを放つ――。これがここ2週間ほどの大田の“覚醒遍歴”である。