野球善哉BACK NUMBER
星稜、甲子園で16年ぶりの1勝。
“見逃し”から生まれた逆転劇。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2014/08/12 17:30
激しい試合を制した後、星稜の林監督は「逆転は自分たちのスタイル」と話した。星稜ナインを“諦めさせる”ことは簡単ではない。
続いた相手のミスに、エンドランで畳み掛ける。
では7回裏、何が起こったのだろうか。
1死から8番・村中が高いバウンドの内野安打で出塁すると、9番・横山の二塁ゴロを相手守備が慌ててエラー。さらに1番・谷川の一塁ゴロに、静岡の一塁手のフィルダースチョイスが重なって1点を返した。
そして1死一、二塁で中村を迎えた場面。林監督が動いた。カウント1-1からの3球目にエンドランを仕掛けたのだ。林監督は言う。
「ダブルプレーだけは嫌だった。ビハインドだったし、攻めていこうと。カウントを考えていまして、その前の球はスライダーがボールになったので、思い切ってサインを出しました。中村は空振りが少ない打者ですから、何とか転がしてくれと思いました」
中村はストレートを強振、左翼前適時打を放った。打球は強烈だったが、ランナーがスタートを切っていた分、本塁を駆け抜けることができた。初回の失点からはじめて、星稜が同点に追いついた。
8回裏、星稜は1死二塁から岩下が右中間を破る適時二塁打で勝ち越し。「みんなが追い付いてくれたので、何とか打ちたかった」という岩下は、9回表のマウンドに登ると、相手の攻撃を三者連続三振に切って取り、試合を締めた。
実は、打者の中村はエンドランのサインを見逃していた。
7回表の重い失点からの反撃は、予想を超えるものだった。
その背景には、星稜ナインの鍛えられたメンタルと、7回の同点機に林監督が積極的に仕掛けたエンドランが試合を変えたと言っていいだろう。
だが実は、この同点の場面で不思議なことが起きている。というのも、打者の中村はエンドランのサインを見逃していたのだ。ランナーがスタートを切っていたことさえ気づいていなかったのだという。中村は言う。
「本当は内緒にしたいんですけど、サインも、走っていることも気づかなかったんです。待っていた球が来たから、それを逆らわずに打った結果なんです」