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星稜、甲子園で16年ぶりの1勝。
“見逃し”から生まれた逆転劇。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2014/08/12 17:30
激しい試合を制した後、星稜の林監督は「逆転は自分たちのスタイル」と話した。星稜ナインを“諦めさせる”ことは簡単ではない。
普通、逆転劇にはきっかけとなる伏線がある。
過去に幾多の逆転劇を目の当たりにしてきたが、たいてい逆転には伏線がある。三者凡退で攻撃の流れを切った、あるいは相手の強打者を三振に取った。そんな追い上げムードに拍車をかける好プレーが生まれるものだ。投手交代など、途中出場の選手が空気を変えることもある。
しかしこのイニングを迎えたとき、星稜にまったくと言って、そんな伏線はなかった。
三者凡退は5回の一度しかなかったし、守備でも6回表に併殺があったが、流れを変えることはできなかったのだ。
むしろ、7回の致命的な1点が重くのしかかってもおかしくない場面だった。実際、林和成監督も「少し下を向いてしまうような失点だった」と話している。
だが、選手の想いは違っていた。キャプテンの村中が「特に、悪い流れとかは感じていませんでした。みんな落ち着いていた」といえば、2番打者の中村勇人も「6回の併殺からこっちに流れは来ていたし、1点を取られてもまだ五分になっただけで、流れが悪いとは感じなかった」と話している。
前向きなメンタルを支える、ある練習法。
県大会決勝で8点差をひっくり返していたことが、彼らの中に「自信」を植え付け、奇妙なくらいの落ち着きをもたらしていたのは事実だろう。
ただ村中によれば、県大会の8点差のことを思い出してナインの心に火をつける、ということだけはしなかったという。村中は続ける。
「県大会の逆転があったので自信もあったし、余裕があったのは事実ですが、日頃の練習の雰囲気が今の快進撃につながっていると思います。普段からメンタルトレーニングをしているのですが、練習の中で絶対に後ろ向きの言葉は発しないようにしようとみんなで言い合っています。常に前向きな言葉がけをしようということです。その積み重ねが、県大会の決勝と今日の試合の中で生きたのかなと思います」