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南米の「神話」が合理主義に屈した日。
7-1がブラジルに問う、究極の難題。 

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田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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posted2014/08/04 10:40

南米の「神話」が合理主義に屈した日。7-1がブラジルに問う、究極の難題。<Number Web> photograph by Getty Images

ブラジルの、そして南米サッカーの持つ神話を過去の物にしたのは、ドイツが体現した完全な合理主義だった。サッカーの歴史はどこへ向かうのだろうか。

「魔の6分間」の4得点は、全てこのパターンだった。

 この崩し方が見事にはまったのが、ブラジル戦だ。

 試合を録画された方は、「魔の6分間」をもう一度見直してほしい。

 23分にクローゼが決めた2点目、24分と26分にクロースが決めた3点目と4点目、29分にケディラが奪った5点目は、すべてこれらのパターンによるものだ。違いがあるとすれば、中央突破かサイドアタックか、通常のビルドアップか、インターセプトからのショートカウンターかという差にすぎなかった。

 このような崩し方に対抗するのは、ただでさえ難しい。守備側が数的優位に立っていたとしても、ボールとポジションを入れ替えてくる相手についていけなければ、フリーの選手を作られてしまうからだ。

 事実ブラジルは、7対4や6対4と数的優位に立っていた状態でも、ゴールを割られている。ましてやチアゴ・シウバは不在だったし、インターセプトから逆を突かれ、3対3のような状況を作られれば、対応するのは一層困難になる。

 おそらくドイツは2点目を奪った際に、ブラジルの守備陣が予想以上に脆いこと、スルーやダミーラン、スクリーンや折り返しといった自分たちの攻撃に、相手がまったく対応できないことに気がついたに違いない。

 同じ現実を、逆の立場で突きつけられたブラジルは、当然パニックに陥り、さらなる深みへはまっていく。レーブは試合後の記者会見で、次のように語っている。

「2-0になったことで、ブラジルの選手が混乱したのは見てとれた。それ以降のブラジルは、本来の組織を立て直すことができなかった。ブラジルの組織は瓦解していたし、選手達は茫然自失(シェルショック)の状態に陥っていた。対する我々は冷静さを保ちながら、そのチャンスにつけ込むことができた」

完全に瓦解したブラジル代表の「ロジック」。

 6分間で4点を奪うという展開は、勝敗を決定づけただけではない。ブラジル代表の、攻守におけるロジックそのものも崩壊させた。レーブのコメントを再び引用しよう。

「(組織の瓦解した)ブラジルは、中盤を省略してロングボールを放り込むようになった。これで中盤に広いスペースが空くようになり、我々は中盤をさらに制圧するようになっていった」

 単調な攻めに終始し始めたブラジルに、ドイツが対抗するのは雑作もなかった。

 デフォルトでは4-3-3(4-1-2-3)を基本とし、局面に応じて4-2-3-1や4-1-4-1などを使い分けながらボランチを配置し、最も相手に突かれやすいエリアをカバーする。

 その上で守備を固めるときには、ボランチの選手をMFのラインに吸収させてシステムを4-4-2や4-5-1に変更。MFとDFの間隔をタイトにして、相手を圧殺(プレス)していく。これは昨シーズンのCLで採用された方法に、一脈通じるものだ。

 しかもドイツは、平均身長180cm後半を誇るディフェンダーの後ろに、ノイアーという巨大な壁がそびえ立つ。ドイツは矛(FW)と盾(DF)がしっかりしているだけでなく、盾の部分は分厚い2枚重ねの構造になっていた。盾と矛の作りがもともと弱く、かつネイマールとチアゴ・シウバという飛車角を抜いたブラジルが大敗したのは、無理もない。

【次ページ】 ドイツの戦術は、あくまでもオーソドックスだった。

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