オフサイド・トリップBACK NUMBER
南米の「神話」が合理主義に屈した日。
7-1がブラジルに問う、究極の難題。
posted2014/08/04 10:40
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
Getty Images
リオのアパートで朝の4時まで原稿を書き、そのまま空港へタクシーで移動。機内でわずかな仮眠を取り、スタジアムに直行して取材を終えると、再び飛行機にとび乗って夜の10時に戻ってくる。
こんな生活を1カ月も続けていると、さすがに体も心もリズムが狂ってしまう。日本に帰ってきてからも、クラプトンの古いブルースのアルバムを聴きながらスコッチを舐めないと、寝付けなくなってしまった。
それでもブラジル大会の記憶は、今も鮮明に脳裏に焼き付いている。特に強烈なのは、ベロオリゾンチでドイツがブラジルを7-1で下した試合だ。
この一戦は「衝撃」や「歴史的大敗」という見出しとともに、世界中で報じられた。W杯史上、ブラジルがかくも完膚なきまでに敗れたことはないし、準決勝で6点差以上の差がついたのも初のケースである。
だが耳あたりのいいキャッチフレーズばかりに捕われてしまうと、本質的なところが見えなくなってしまう。重要なのは、かくも大差がついてしまった理由を冷静に整理して捉え直すことと、いかなる意味で衝撃的であり、歴史的だったのかという問題を考えることだ。
主力の欠場よりも重要な、完成度の絶対的な差。
事実上の決勝戦とも目されていた試合が、なぜ7-1などという興ざめのスコアに終わったのか。
一つ目の理由は、ネイマールの腰椎骨折とチアゴ・シウバのカード累積により、ブラジルが攻守両面においてキーマンを失ったことであるのは言うまでもない。
二つ目の理由は、両チームが抱えていた根本的な違い、完成度そのものの絶対的な差だ。
今大会のブラジルは盤石ではなかった。攻撃はネイマールの個人技頼みで、守備もスコラーリのチームとは思えないほど綻びが目立った。これらの傾向は、グループリーグの時点から露呈し始めていた。相手の健闘もさりながら、メキシコやチリを相手に苦戦を強いられた所以だ。
対照的にドイツは、攻守両面の方法論に磨きをかけながら、コンディションをピークに持っていった。個人的な推測の域は出ないが、フランス戦における省エネサッカーぶりを見る限り、ドイツはブラジルとの準決勝にピーキングを設定しているような印象さえ受ける。
結果、チームの練度において水をあけられていたばかりか、攻守のキーマンを同時に失ったブラジルは、臭いものに蓋をしたまま勝ち進んできたツケを、一気に支払わされる格好になった。