ブラジルW杯通信BACK NUMBER
スペイン式ポゼッションのさらに先へ。
“未来のサッカー”でドイツがW杯制す。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byGetty Images
posted2014/07/14 12:15
2002年は準優勝、自国開催の2006年は3位、2010年も3位。トップクラスの実力を持ちながらあと一歩届かなかった栄冠を、南米の地で欧州勢として初めて手にしたドイツ。この勢いはしばらく止まりそうにない。
様々なトラブルに対応しきったレーブのベンチワーク。
ドイツを率いるレーブ監督の冷静なベンチワークも勝因の一つと言っていい。試合直前にスタメンを予定していたMFケディラがふくらはぎを傷めて欠場を余儀なくされる。メンバーの再編を強いられたレーブは経験の浅いMFクラマーの名前を先発リストに書き込むが、そのクラマーも17分にガライと交錯した際に頭部を打ち、31分にベンチへ退く。この緊急事態にもレーブは少しも動じることなく、切り札シュールレを投入。左翼のエジルを中央に回し、攻撃スタッフの数を増やす強気の采配で、自陣に後退して人数をかけるアルゼンチンの堅陣を切り崩しにかかった。
さらにレーブは延長目前の88分、1トップを担う大ベテランのクローゼに代えてゲッツェを投入。右翼のミュラーを1トップに回し、勝負に出た。あの手この手でゴールに迫るドイツの猛攻をしのいできたアルゼンチンの守備陣も、延長に入って動きが鈍くなっていく。
瞬間的にマークを外せるゲッツェの機動力が生きる状況が整いつつあった。決勝ゴールの伏線である。シュールレが縦に持ち出した瞬間、ニアへ潜り込んだゲッツェの動きに反応するアルゼンチンの守備陣は1人もいなかった。
パスだけでも、ドリブルだけでもないドイツの攻撃。
大胆に仕掛けたシュールレのジャッジも素晴らしい。人数をかけて守る相手に対して、パスワークだけではなかなか崩せない。そこでドリブルワークに切り替え、数的優位をつくり、マークのズレを誘っている。準決勝までアルゼンチンの右サイドにフタをしてきた熟練サイドバックのサバレタも、シュールレの仕掛けを防ぐ余力は残っていなかった。パスワーク一本槍でも、ドリブルワーク一辺倒でもない。双方を巧みに両立させる人材とアイデアによって、難攻不落の要塞を攻略してみせた。