スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
チャレンジとルール解釈の変更。
~MLBビデオ判定拡大の余波~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2014/04/26 10:50
新制度は概ね好評のようだが……(写真は4月20日、一度はセーフとされた盗塁がチャレンジでアウトになったイチロー)。
「チャレンジ」が論議を呼んでいる。
きわどいプレーがあった際に、監督はビデオ審議を求める権利を持つ。これをチャレンジと呼ぶのだが、この対象になるプレーの範囲が今季から大幅に拡張されたのだ。
日本のスポーツ新聞でも、チャレンジによってイチローが内野安打を2本増やしたことが話題になっている。俊足を誇る彼のことだから、審判の判定ミスはこれまでにも相当あったにちがいない。
手つづきのおさらいをしておこう。監督がチャレンジできるのは、原則として1試合に1度だけだが、1度目のチャレンジで判定が覆った場合にはもう1度チャレンジの権利が与えられる。ただし、3度以上は許されない。また7回以降、状況に応じて責任審判がビデオ審議を要求することも認められている。
新制度の導入は、誤審を減らすことが目的だ。西岡剛(第1回WBCの日米戦で正当なタッチアップをアウトにされた)やアーマンド・ガララーガ(タイガースの投手。2010年に9回二死で完全試合をフイにされた)のような犠牲者を生んだ大誤審は、まず撲滅されると考えて差し支えないだろう。
「捕球」と「送球」の定義がブレるという副作用。
だが一方では、面倒な問題も発生している。
「捕球」の定義がここへ来てずいぶんブレはじめているのだ。たとえば4月8日には、論議を呼ぶプレーがふたつも見られた。
ひとつはシアトルで行われたマリナーズ対エンジェルスの試合。5回裏、エンジェルスの左翼手ジョシュ・ハミルトンが、コーリー・ハートの打ち上げたレフトフライをいったんグラヴに収めながら、送球動作に移った瞬間、ポロリと落としてしまったのだ。
このプレーに対し、三塁塁審はアウトを宣告した。マリナーズのロイド・マクレンドン監督は、ただちにビデオ審議を要求する。判定は覆され、ハートは一塁に出た。
もうひとつの試合は、カンザスシティで行われたロイヤルズ対レイズの試合。3回裏、一死一塁の状況でロイヤルズのジャロッド・ダイソンがショートゴロを放った。レイズの遊撃手ユネル・エスコバーは打球を難なくさばいて、二塁手ベン・ゾブリストに送球する。ベースを踏みながら捕球したゾブリストは、当然、併殺を狙った。だが送球しようとした瞬間、球はグラヴからこぼれた。判定は二塁もセーフ。
レイズの監督ジョー・マドンは、ここでチャレンジに出た。ゾブリストの捕球は完了していたのだから、二塁封殺は有効のはずと主張したのだ。