スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
チャレンジとルール解釈の変更。
~MLBビデオ判定拡大の余波~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2014/04/26 10:50
新制度は概ね好評のようだが……(写真は4月20日、一度はセーフとされた盗塁がチャレンジでアウトになったイチロー)。
従来ならアウトと思しきケースで、判定の変化が。
しかし、判定は覆されなかった。「ゾブリストは完全な送球動作には入っていない。捕球を継続中の状態で落球した」というのが審判の見解だった。
これとそっくりのケースが、4月20日のボストンでも起こった。レッドソックス対オリオールズ戦の7回裏。
場面は一死一塁。打者グレイディ・サイズモアは、ここでピッチャーゴロを放った。オリオールズの投手ザック・ブリトンは球をつかんで振り向きざま二塁に送球した。ベースカバーに入った遊撃手ライアン・フラハティは、しっかり捕球してベースを踏み、一塁に転送しようとしたが、その瞬間、お手玉をしてしまった。判定は、二塁もセーフ。
オリオールズの監督バック・ショウォルターは、抗議こそしたもののチャレンジを要求しなかった。おそらく彼の頭には、4月8日のケースが刷り込まれていたのだろう。「捕球」の定義が変化したことも、感じていたはずだ。
ハミルトンやゾブリストやフラハティのケースは、従来ならばアウトが宣告されていたのではないだろうか。
「捕球」と「送球」の継ぎ目はどちらに属するのか?
ルールブックを見ても、《捕球とは、球をしっかりグラヴのなかに収めること。……捕球した野手がボールを離すときは、自身の意思に基づいていなければならない。……野手が捕球し、それにつづいて送球動作に入ったときに落球したときは、捕球がすでに完了したものと見なしてアウトを宣告する》という条項が記されている。
つまり、送球の際にお手玉や落球をしても、捕球が完了していると見なされた場合はアウトひとつを獲得することができたわけだ。
ところが、4月のゲームを見るかぎり、「捕球」と「送球」のトランスファー(継ぎ目)の定義は、明らかに変わってきた。つまり、以前なら「送球動作のはじまり」と見なされた動きが、「捕球動作の後半部」と見なされるようになったのだ。MLB.COMのビデオを見直すと、ゾブリストやフラハティは不満の色を隠していない。だって捕球は完了していたじゃないか、アウトひとつは取ったはずだよ、というのが彼らの言い分なのだろう。
通常、ルールブックの変更はオフシーズンに行われる。「捕球」の定義を変えるのなら、大リーグ機構はもっと前に明文化すべきだったという意見があるのもたしかだ。しかし、趨勢は審判団の見解に従いつつある。ビデオ審議が導入されたことで、捕球と送球の間のグレイゾーン=トランスファーがはっきりしたことも原因のひとつだろう。