スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
3年前のペップの予言が現実に?
不振のメッシに吹き始めた“逆風”。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byREUTERS/AFLO
posted2014/04/22 16:30
2004年にデビューを飾って10年、バルサとの関係は「蜜月」とも言えるものだったが。
アトレティコ・マドリーとのチャンピオンズリーグ準々決勝、リーガ・エスパニョーラのグラナダ戦、そしてレアル・マドリーとのコパ・デルレイ決勝。僅か1週間のうちに全タイトルの可能性を実質的に失った3つの敗戦において、メッシはバルセロナの攻撃から消えていた。
パスを引き出す動きはほとんどなく、ボールを持っても淡白にパスをさばくばかりで、ドリブルでスピードアップする仕掛けのプレーが見られない。さらには自身のミスでボールを失った際にも責任をもって奪い返しに行く姿勢を見せず、必死に帰陣するチームメートたちをただ眺めるだけというシーンまで目についた。
いったいメッシに何が起こったのか。
「ここ2週間はどんどん調子が上がっているんだ。もうケガのことは忘れたよ」
そうメッシ自身が言っていたのは、1stレグ、2ndレグ共に重要なゴールを生み出したマンチェスター・シティとのCL決勝トーナメント1回戦を突破して間もない3月半ば。その1週間後、全4ゴールに絡む活躍で逆転勝利の立役者となったエル・クラシコでは完全復活を印象づけるだけでなく、リーダーとしての自覚の芽生えすら感じさせていた。
W杯のために手を抜いているだけなのか……。
相次ぐ筋肉系の故障に1年近く苦しんできた末、ようやくメッシはトップフォームを取り戻した――。誰もがそう確信しはじめた矢先、突然生じたエースの沈黙。その原因はメッシ自身にあるのか、それとも彼の周囲にあるのか。6年ぶりの主要タイトル無冠という最悪の結果をもたらすことになったこの謎は、様々な憶測をもたらしている。
メッシはW杯前にケガをせぬよう、力をセーブしはじめたのではないか。主にアルゼンチンメディアから聞こえてくるのが、太腿のケガが相次いだシーズン前半から存在した「W杯温存説」だ。
コパ・デルレイ決勝の翌日、アルゼンチンのスポーツ紙『オレ』は「手を抜いているのであれば良いが」と、皮肉を込めてエースの沈黙を報じた。また同国の著名なジャーナリスト、フアン・パブロ・バルスキーはこう言っている。
「グアルディオラが去った際、メッシはチームを一身に背負っていく役割を引き受けた。だが昨年10月、体が限界を訴えた。今の彼は自分とW杯のことを考えはじめている」
この説については、リーガ第30節セルタ戦にてビクトル・バルデスがW杯絶望の重傷を負ったことをきっかけに、ケガへの恐怖心が再燃したという主張もある。