スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
3年前のペップの予言が現実に?
不振のメッシに吹き始めた“逆風”。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byREUTERS/AFLO
posted2014/04/22 16:30
2004年にデビューを飾って10年、バルサとの関係は「蜜月」とも言えるものだったが。
「メッシに“殺し屋”の目つきはなくなった」
その真偽は本人にしか分からないことだが、クラブレベルでチーム、個人共にあらゆるタイトルを取り尽くしてしまった彼が、大会中に27歳の誕生日を迎える隣国ブラジルでのW杯を、キャリア最大の目標とするのは自然なことだ。むしろ理由がそれだけであり、来季からは再びバルサのために全力を尽くしてくれるのであれば、これまで彼から数々の成功を享受してきた人々は2、3試合の怠慢に目くじらを立てるべきではないのかもしれない。
しかし、この沈黙をより深刻な兆候と見る者もいる。1978年にアルゼンチンをW杯初優勝に導き、後にバルセロナを指揮した経験も持つセサル・ルイス・メノッティは、精神的な落ち込みがメッシのプレーに影響していると考えている。
「メッシは喜びと誇り、情熱を取り戻さなければならない。それはバルセロナのようなクラブでプレーする上で不可欠な要素だ。彼は見る限りフィジカルよりメンタル面で疲労を抱えている。たくさんの試合とたくさんの義務を果たしてきたのだから当然のことだ」
同国の『DirecTV』で実況を務めるパブロ・ヒラルトはもっと厳しく、ダイレクトにモチベーションの欠如を指摘している。
「メッシに“殺し屋”の目つきは見られなくなった。今の彼は野心を失い、勝敗などどうでもいいと思っているような印象を与えている」
脱税問題、ネイマールとの待遇差、執行部批判。
彼らが言う通り、もしメッシがプレーする喜びや意欲、情熱を失ってしまったのだとしたら、もうそれはどうしようもないことである。だがそれが外的要因に帰するものであるならば、一刻も早くその要因を突き止め、解決に努めなければならない。
その要因として第一に挙げられているのは、現執行部への不信感だ。
昨夏に自身と父親が脱税容疑をかけられた際、十分なサポートを受けられなかったこと。ネイマールの年俸額が自分のそれを上回ることはないと約束していたにもかかわらず、実は様々な名目を付けて自分の年俸を上回る高額報酬をネイマールに払っていたこと。そして自身への契約更新オファーの内容はロセイ前会長が約束していた条件を遥かに下回るものだったこと。
こうした出来事が重なるにつれて執行部との距離を置いていく中、昨年12月には財政部門を統括するハビエル・ファウス副会長がメッシとの契約更新について「半年ごとに契約更新をオファーする必要などない」と発言。直後にメッシが「ファウスはフットボールのことは何も知らない。彼はバルサをまるで会社のように扱おうとしている」と公に批判する騒動もあった。