フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
羽生結弦、五輪王者としての初舞台。
「追われる立場」での世界選手権へ。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2014/03/12 10:30
ソチで世界の頂点に立った羽生結弦。「五輪王者」という肩書きの意味は、ここからの彼の歩みにどんな色合いを加えるのだろうか。
3月26日から、さいたまスーパーアリーナで世界選手権が開幕する。
ソチ五輪でフィギュア男子史上2番目に若い五輪金メダリストとなった19歳の羽生結弦にとっては、3度目の世界選手権チャレンジになる。
通常、五輪が行なわれた年の世界選手権は、疲労やアイスショーの契約などを理由に欠場する五輪メダリストが少なくない。だが、羽生はソチ五輪が終わった直後から世界選手権に向けての抱負を語っていた。
「世界選手権は、日本の代表として出させてもらう大切な試合。まだメダルを一個しか取っていない。金をまだ取っていないので頑張りたいと思います」
男子シングルの五輪チャンピオンがその年の世界選手権に出場するのは、2002年のアレクセイ・ヤグディン以来。実に12年ぶりのことになる。
過去の五輪金メダリストたちは、ベテランが多かった。
過去の五輪で、男子の金メダル争いは、かなりの実績を積んだベテランたちの間で競われてきたことが多かった。
バンクーバー五輪のエヴァン・ライサチェック、トリノ五輪のエフゲニー・プルシェンコ、ソルトレイクシティ五輪のアレクセイ・ヤグディン、そして長野五輪のイリヤ・クーリックなど、いずれも世界の舞台でかなりの実績を積み上げてから五輪の表彰台へと到達したベテランたちである。五輪の金メダルを最後に引退しても、少しもおかしくないキャリアの選手たちだった。
だが19歳の羽生結弦は現在まだ伸び盛りで、本来ならばまだジュニアの大会にも出られる年齢だ。過去のベテランたちとは立ち位置が違う。
そのことは本人も一番良くわかっているのだろう。「五輪はぼくにとって1つの試合にしか過ぎません」と言い切った。
彼にとっての五輪金メダルは、長いキャリアを締めくくる功労賞のようなものではなく、新たなスタートに過ぎないのだ。