フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
羽生結弦、五輪王者としての初舞台。
「追われる立場」での世界選手権へ。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2014/03/12 10:30
ソチで世界の頂点に立った羽生結弦。「五輪王者」という肩書きの意味は、ここからの彼の歩みにどんな色合いを加えるのだろうか。
金メダルは獲得しても、演技には悔しさが残った。
1つには、ソチ五輪のフリー演技が本人にとっても不完全燃焼だったこともある。
「金メダルは嬉しいけれど、自分の実力をあの大きな舞台で発揮できなかったという思いがある。嬉しいと同時に悔しい気持ちもあります」
SPでは完璧な演技を滑りきり、史上初の100点超えという記録を作った。それだけにフリーで2回転倒したことは、納得できない思いだったに違いない。
海外の関係者からは、厳しい声も聞こえてきた。二度の五輪銅メダリストでテレビの解説者としてソチに来ていたフィリップ・キャンデロロは、こう語った。
「男子のフリーは誰も勝ちたくないかのような試合だった。勝者なしの戦いでした。二度も転んだ選手が五輪チャンピオンになったというのを、一般の視聴者にどう説明すればいいのか、ぼくもこまりました」
早くも羽生の視線は、23歳で迎える平昌五輪へ。
確かに羽生のフリーは、本人の持てる力を存分に発揮した演技ではなかった。
それでもチャン、フェルナンデス、そして高橋大輔、町田樹らトップ選手の誰もがノーミスで滑ることができなかった中、生き残って勝ち取った金だった。出だしの2度の転倒から持ち直して、後半はミスなくまとめたところは、彼の精神力の強さに違いない。
「最高のパフォーマンスができなかったことは悔しい。平昌五輪までの4年間、日々精進していきたいと思っています」
早くも羽生の視線は、4年先の次の五輪へと向かっている。
2018年には羽生は23歳になっている。男子シングル選手として、脂の乗り切った良い年齢だ。
この4年は、彼が五輪タイトル保持者として過ごす4年になる。
二度の五輪銀メダリスト、エルビス・ストイコはこう語る。
「これからは世界中の選手が、どうやったら羽生に勝てるかということに集中してくる。背中に標的をくっつけて歩くようなもの。それは彼にとって、新たなチャレンジになるでしょう」