欧州サムライ戦記BACK NUMBER
27戦で17零封と絶好調の川島永嗣。
成熟を促した、類稀なる完璧主義。
text by
了戒美子Yoshiko Ryokai
photograph byImage Globe/AFLO
posted2014/02/28 16:30
リエージュのまさに「守護神」として最後方に君臨する川島永嗣。ピッチ外での理知的な姿と、ピッチでの鬼気迫る表情の組み合わせは成熟のなせる業か。
リエージュというチームの守備スタイル。
ひとつには、リエージュというチームの守備スタイルがある。この日は3失点こそしたものの、川島がボールを処理するシーンはセットプレーなどを含めてわずかなもの。前線からのプレスが機能し、最終ラインまでに危機が未然に防がれるので川島の出番そのものが少ない印象だ。
加えて年末からは「自分たちがボールを動かし、数的優位を作るサッカー」を志向しているのだと言う。
高い位置でキープできれば、自然とゴール前でのピンチは少なくなる。またDFラインからのバックパスもほとんど選択されないため、無駄なピンチが生まれることがないのだ。
リエージュのようなリーグで上位を争う強豪チームのGKには、得てして大ピンチは数多く訪れない。となると、1試合に数度訪れるピンチを確実に防ぐことこそが重要な仕事になる。
その仕事を川島がやり遂げてきた背景には、まずもちろん技術的な成長がある。しかしここまで多くの無失点試合を重ねることができたのには、川島の類まれなる完璧主義が大きく作用しているように見える。これが、現在の結果を生んだもうひとつの要因なのではないか。
今の川島は、成熟と呼ぶに相応しいのかもしれない。
無失点記録や連勝記録が途切れたときに、多くの選手は悔しがるというよりもどこかほっとしたような表情を見せるものだ。長いシーズン、長い選手人生の中で勝ち続けることなんてあり得ないと、彼らは身にしみて分かっている。
だからこそ、「まあ、いつかは負けるものだから」などという、半ば自分を納得させるようなコメントを聞くことは少なくない。
だが、このゲント戦後の川島は180度違った。
「やっぱり無失点で終わらせたいし、どの試合も完璧に終わらせたいし、その気持ちは今日も変わらなかった。内容は相手で変わることもあるが、(結果にこだわるという)自分の気持ちは変わらない。そういう意味では勝てなかったことが残念だった」
穏やかな口調で話す間、あの大きな目に力がこもったような気がした。負けん気の強さが、言葉の迫力につながった。おそらくはこんなメンタリティでなければ、小柄な日本人GKがここまでの結果はだせないのだろうと想像させた。
他にも川島の、英語学習法を一冊の本にするほどの高い語学力、つまりは高いコミュニケーション能力はチームにとけ込むのに大きく役立っただろう。また、一連の取材への応対からも分かるマイペースさは、サッカーへの集中に一役買っているはずだ。
この辺りは、持ち前の素質だったかもしれないし、欧州で長く戦うなかでの処世術だったかもしれない。
いずれにせよ、そんな彼の性質と、負けん気と完璧主義が良いバランスであいまって個のレベルアップ、そして今季の好結果につながっているのではないだろうか。今の川島の様子を、もしかしたら成熟と呼ぶのかもしれない。そんな風に思っている。