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<個人複合、初の頂点へ> 渡部暁斗 「変わり者が貫く“美学”」
text by
折山淑美Toshimi Oriyama
photograph byJun Tsukida
posted2014/02/12 06:10
'90年代、荻原健司ら日本勢が隆盛を誇った時代にも、
個人種目の金メダルには届かなかった。
その頂きを視界に入れた新エースの真髄に迫る。
各競技で熱戦が続くソチ五輪。
今回はNumber846号に掲載したノルディック複合、
渡部暁斗選手の記事を全文公開します。
荻原健司たちが'90年代前半に、いち早く取り入れたV字ジャンプの威力で世界を席巻した日本ノルディック複合。度々のルール変更で徐々に距離重視になる中、日本は低迷の道を歩み始めていた。
だが、ようやく世界と戦える選手が出てきた。一昨年のシーズンに4勝をあげ、W杯総合2位になり、世界のトップへと駆け上がった渡部暁斗だ。昨季は優勝こそなかったが、安定した成績で総合3位。夏のGPでは総合優勝と、ソチ五輪でも世界一を狙える位置にいる。
だが、「単純に好きで始めて、楽しくて続けてきたという感じです」と自然体を崩さない渡部は、世界のトップに位置するようになった今でも、自信を持って競技をしているわけではないのだという。自分を突き動かしているのは、「もっとうまくなりたい」という気持だけではないか、と語る。
「複合の場合、いくら飛んでもいくら走ってもトップじゃないというのがあるんです。僕たちはいつまでたっても極まったところには辿り着かないところで競技をやっている。だからいつも、成績が出たとしても、100%納得した感じはないんです」
器用貧乏な複合の選手は斜に構えている人が多い?
強くなればなるほど、さらなる強さを追求したくなる。そうなった時に気がついたのが、自分のやっているのはスペシャリストにはなりきれない競技だということだ。その中途半端な立場に、何となく引け目のようなものを感じる時もある。
ジャンプはいくら飛んだからといっても純ジャンプの選手には敵わないし、クロスカントリーは速いといってもクロカン選手には勝てない。器用貧乏とでもいえる能力が有効な競技ではないか、と言って渡部は苦笑する。
「だから複合の選手は冷静で、ある程度、斜に構えた考え方でなければダメだと思います。のめり込んでしまうタイプは多分、複合選手としては大成しないんじゃないかと。『あんなには飛べないんだ』『あんなには速く走れないんだ』というのをわかってはいるけどやっている。複合ではトップになれても、競技の内容としては終わりがない。だからこそ、面白いのかもしれませんけど……」