ソチ五輪EXPRESSBACK NUMBER
お家芸、男子500mでオランダに完敗。
日本のWエースを襲った「想定外」。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2014/02/11 12:00
長島圭一郎は1本目で3位につけていただけに、2本目の第一カーブで足を滑らせたミスが悔やまれる。
帽子を目深にかぶり、右手で顔を押さえ、肩を震わせた。いつもカラッと強気な長島圭一郎が、堪えきれずに泣いていた。
加藤条治は呆然としていた。「完敗」というところ以外に、感情の着地点が見つからないようだった。
バンクーバー五輪銀メダルの長島、銅メダルの加藤が束になって金メダルに挑んだスピードスケート男子500メートル。だが、訪れたのはあまりに厳しい結末だった。
加藤5位、長島6位。2人は表彰台も逃していた。
現実の重苦しさに、コメントを絞り出すふたり。
その向こうでは、オレンジ軍団のムルダー兄弟が体をぶつけ合うように抱擁し、歓喜を爆発させている。「長距離王国」と呼ばれ、短距離を苦手としてきたオランダ勢が、8日の男子5000メートルに続いて金銀銅メダルを独占。男子500メートルでは同国史上初の金メダルをかっさらった。
衝撃としか言いようのない結果。長島、加藤は受け容れるべき現実の重苦しさに押しつぶされそうになりながらコメントを絞り出す。
「情けない。力がない。本番に弱いのかな」。自嘲気味に言う長島。加藤も「オランダの3人衆が今までと違う滑りをしてきて抜け出した。完全に負けた」と声を自分に突き刺した。大きな期待を肌で感じ、誇りを持ってスケートに取り組んできたからこその責任感が2人をうつむかせた。
決して悪いレースではなかった。アウトスタートだった長島の1本目は34秒79。低地リンクの記録としては自己ベストだ。順位も3位。1本目6位から2本目1位という大逆転で銀メダルに輝いたバンクーバー五輪を思い出せば、首位と0秒20差で3位なら、タイムも順位も金メダル射程内だ。