野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
“戦力外”ながさわたかひろが個展?
「これは野球美術家のトライアウト」
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHidenobu Murase
posted2013/12/04 10:30
神楽坂のギャラリー「eitoeiko」で個展を開催中のながさわたかひろ。
ヤクルトから事実上の戦力外通告を受け……。
されど、ながさわとてこの4年間、1日も休まずスワローズを描き続け、誰にもできないことをやってきたという自負がある。
「僕はダメで、村上春樹(今季FC名誉会員に就任)さんはいいんですか!?」
「出川哲朗(同名誉会員)さんなんて、巨人のファン感に出てましたよ!」
最後にはそんな小学生じみた密告までして必死に食い下がったが、職員は尚も優しくながさわにこう語り掛けた。
「あの方たちは影響力がありますから……」
至極、ごもっとも。ながさわは自分の無名さを嘆くしかなかった。
“作品を通じてスワローズの力になることを証明し、その結果として球団に選手として認めて貰いたい”そんな思いの下に活動をはじめた以上、この忠告は事実上のヤクルトからの戦力外通告として受け取るしかなかった。
「もちろん、描き方を変えたり、ファンとして描くということもできますよ。でもね、僕の作品の源には“選手としてチームの力になる”という理念がある。昨年、選手として現役引退を宣言したし、今年の前半はファンという立場でもっと軽くやろうと思っていたんです。けれど、そうやって完成したものは『なんだよこれ?』って、後悔しか残らないような作品でした。
結局、『野球と自分の生活どちらを取るか』の二択となった時に、ファンであれば生活を選ばざるを得ない。何よりも野球を一番に優先させるためには、やっぱり選手として臨むしかないんです。今シーズン途中からは選手に復帰して144試合しっかり描きましたけど……。そのゴールである『選手として認めて貰う』ことが難しいとなると、もうこれは選手としての僕の存在は球団にとって必要ないんだと捉えるしかないですよね」
この作品は、みんなの魂が作らせてくれてるんだ。
「この4年間、絵を描くために観てきたのは試合や選手だけじゃないんです。継続して観ているといろんなことがわかってくる。チームのいいところ、ダメなところ。選手、ファンの人らがわかってくる。ヤクルトはいい球団です。選手を大事にしてくれる。そして何よりもファンの人が温かいんです。球場で試合を観る一方で、スタンドで、球場の外で、スワローズを生き甲斐とし、自分の人生のように応援する、多くのファンの姿を観てきました。
遠征で行った僕の地元山形での巨人戦。ユニフォームが配布され360度オレンジに染まる中、レフトスタンドで『みなさんは巨人ファンかもしれません。でもヤクルトもよろしくお願いします!』と笑われても声を張り上げ続けた応援団。そして、『彼はすごいのよ。応援してあげて』と周囲のヤクルトファンに声を掛けまくってくれたおばちゃん。お金がない僕に『チケットがあるけど行く?』と声を掛けてくれる人たち。その人らのおかげで、いろんな球場のいろんな席でスワローズの試合をみることができました。この作品は、僕が一人で作っているんじゃない。みんなの魂が作らせてくれているんだ。そう思います」
いやいやいやいやいや。