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“戦力外”ながさわたかひろが個展?
「これは野球美術家のトライアウト」 

text by

村瀬秀信

村瀬秀信Hidenobu Murase

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photograph byHidenobu Murase

posted2013/12/04 10:30

“戦力外”ながさわたかひろが個展?「これは野球美術家のトライアウト」<Number Web> photograph by Hidenobu Murase

神楽坂のギャラリー「eitoeiko」で個展を開催中のながさわたかひろ。

 12月、神楽坂。

 美術家・ながさわたかひろは、3日からはじまる個展に向け夜通しで最後の準備作業に追われていた。

 そこには今季の東京ヤクルトスワローズ144試合を描いた「ぬりえ」をメインに、ながさわが選ぶ一軍ベンチ入りメンバーをひとりひとり抜き出して描いたパネル。チーム全員の似顔絵にサインが入ったポスターなど、今季ながさわが作った作品が展示される一方で、ライトスタンドで実際に使用されている応援旗、バレンティンの本塁打新記録が掛かった際に話題となった「COCOメーター」の実物、引退した宮本のサインボールやら、神宮球場各種チケットの半券など、スワローズの2013年が一堂に会したような“超濃縮還元ヤクルト”空間。その気合の入り方に、ながさわのかつてないほどの覚悟が窺える。

「これが僕のヤクルトでの最後の作品展になるかもしれませんからね。悔いは残したくないんです」

 その目に笑みはない。昨年の引退から今シーズン半ばに現役選手へ復帰した直後に訪れた大きな試練。来るべき最後の戦いに挑む。

神宮球場で見かけた球団社長に、御手打ち覚悟の直訴!

 10月、青山。

 ながさわはヤクルトスワローズの球団事務所に呼び出されていた。

 シーズン終盤の神宮球場。いつものように試合を観ていると、川端が同点ホームランを打った喧騒の中に、以前挨拶させて貰ったことのある衣笠球団社長を見つけた。

 いつまでも状況を打破できない鬱々としていた状況もあったからか、ながさわは思わず自らの作品を取り出し、御手打ち覚悟で社長に陳情申し上げた。

「今年もスワローズの試合を描いてきました。僕は最下位に落ちてしまったこのシーズンがどういうものだったのかを、しっかりと振り返ることがチームにもファンにも必要だと思うんです。そのための展示をやらせてください! 球団のオフィシャルという形でバックアップしてはいただけないでしょうか?」

【次ページ】 「球団としては今以上の関係を築くことはできない」

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