でもね、もう粘れないんですよ。

　物事の多面性。自分の価値基準で知らない物事に対して強制的にシャッターを下ろしてしまうことにより、本質を見逃してしまっていることの多さ。そこへ「なんだこれ？」「いいところはどこ？」と作品に入り込む切っ掛けがあれば、景色は一変していく。ながさわは、その切っ掛けを作る手段として“野球”と“芸術”の融合を題材に選んだ。

　だが、人間の先入観はなかなか覆せるものではない。それは野球界からも芸術界からも異端と扱われるながさわがこの4年間で痛切に感じたことでもある。

「彼女たちも野球を題材にしたことで色眼鏡で見られてしまうと言っていましたけどね。僕も野球を題材に選んだことで、野球ファンの人が見に来てくれるようになった一方で、美術界の人たちの足は遠のいているんです。

　そこにはね、僕の責任もあるんですよ。観に来てもらっても、『あ、野球の絵なんだ』って、それだけしか与えられずに帰してしまっている。野球以外にも見所がある。面白いねという提示ができなかったとすれば、それは自分の責任です。そして、同じようにこの4年間で、ヤクルト球団の気持ちも動かすことはできなかった。もっと粘るべきなのかもしれない。来年やれば認めてくれるかもしれない。

　でもね、もう粘れないんですよ。経済的にもうとっくに破綻していますからね。オイシイ仕事の依頼が来ても断るしかないんです。『ごめんなさい。シーズン中なんで』って……バカじゃないの！　その理由はなんだよって思いますよね。

そこまでやって戦力外かよ！って（笑）

　今でも、『いい加減、普通のテーマに戻りなさいよ』と言ってくれる人もいるんです。野球以前の、僕の絵を好きで見てくれてた人はね。いつまでも結果が出ないのに野球にこだわってどうするんだ？って。他の絵なら何の問題も抱えることなく描けるんじゃない？　ってさ。

　でもね、僕もプロの美術家の端くれなんです。それが自分の決めた美術家としての生き方であり、表現方法であるならば、何を言われたって貫きたいんですよ。

　本来は気の多い僕がわき目も振らずのめり込めたものが、野球だったんです。野球にはそれぐらいの力がある。のめり込めばのめり込むほど面白い。自分が何に興味があるか。何に人生を懸けられるか。ようやくそれに出会えたんです。

　一年一年、去年よりやれているっていう手応えもある。ずっと見続けてもらえていたら、作品から感じ取って貰えることは確実にあると思うんです。野球が好きとかそういう話じゃなく。ひとつのことにのめり込んだ時に見えてくるその先。そして、その行き着いたところが戦力外通告という……。それも面白いけどね。そこまでやって戦力外かよ！　って（笑）」

【次ページ】　この人、話の内容だけはまんまプロ野球選手である。