野ボール横丁BACK NUMBER
前田智徳の佇まいに高倉健を思う。
「不器用」を演じるという愛され方。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/12/05 10:30
ファンに、チームに愛された天才・前田智徳。1995年のアキレス腱断裂以来、度重なる故障と戦いながらも、多くの伝説を作ってきた。
前田智徳ほど、多くを語らなかったにもかかわらず、多くの人間に愛された選手はいないのではないか。
前田は年に数度、契約更改のとき等、決まったタイミングでは、きちんと記者に対して自分の考えを披歴した。だがそれ以外、特にシーズン中は、記者に対し、打っても打たなくても「勘弁してください」と固く口を閉ざした。晩年は、記者たちもそれを知っているがゆえに、ほとんど近寄らなかった。
だが、その割に前田に対し好感を抱いている記者が多かったことに驚いた。もちろん、しかるべき義務を果たしてないと不満に感じている記者もいるにはいたが、どちらかというと前田の態度をプロ野球選手のひとつの在り方として認め、敬意すら抱いていた。
なぜか――。
前田は、確かに無骨だったが、ある程度まで、そういう自分を演じていたからではないか。つまり、近くにいた人間は、前田がそれほど不愛想な人間ではないことを感じ取っていたのだろう。
「前田智徳を演じてる部分もあるということですか?」
たとえば、2006年4月号の『野球小僧』でインタビューの冒頭、今号の表紙に起用させてほしいと申し出た記者に対し、前田はこう返している。
「イメージどおり、悪がきでいってください。ええ、もう愛想悪い感じでいってください」
二人のやりとりは、こう続く。
「そういうイメージで周囲が見ているように感じますか?」
「一応、ユニホームを着てる時はそういうイメージを作るつもりでやってきたんで」
「つもりっていうことは、多少は前田智徳を演じてる部分もあるということですか?」
「それはありますよ!」
また、広島の地方雑誌『Athlete』の2013年11月号では、元プロ野球、高森勇旗が寄せた記事の中にこんな一節が出てくる。
〈実は前田さんはしゃべり始めると止まらないし、ユーモアのセンスも抜群にある。とにかく、トークがめちゃくちゃ面白い。特にゴルフの話になると目を輝かせて話し、前田さんが「師匠」と仰ぐプロゴルファーの田中秀道さんが激励に訪れたときなどは、もの凄いテンションだった〉