野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
“戦力外”ながさわたかひろが個展?
「これは野球美術家のトライアウト」
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHidenobu Murase
posted2013/12/04 10:30
神楽坂のギャラリー「eitoeiko」で個展を開催中のながさわたかひろ。
「球団としては今以上の関係を築くことはできない」
かねてからながさわの活動を知っていた衣笠社長は、その切実なる陳情に真摯に耳を傾けてくれた。
「後日、担当者から連絡させます」
そんな言葉で社長と別れ、後日、呼び出された球団事務所。期待に胸を躍らせるながさわとは逆に、担当者の顔色は冴えなかった。
「あれ、なんか変だな……って思っていたら、案の定『ヤクルト以外の選手が出ていると肖像権の問題があるため球団としてはOKを出せないんです』という返答でした。いや、それなら、他の11球団からもOKをもらってきますよ……と言いましたけど……ね」
そして後日、場を改めて会った球団職員の口から、“あくまでも個人的な見解”として放たれた言葉は、ある意味で、これまでのながさわの活動が行き着いたひとつの終着点となる。
「ながさわさんがこれからも活動を続けて行くにしても、球団としては今以上の関係を築くことはできないと思います」
ながさわの活動はあまりにも悲壮だった。
その諌言は冷酷なようにも思えるが、球団の事情としてはよくわかる。選手一人一人には肖像権がある。そして、“ひとりの過剰なファン”に特別な扱いをしてしまえば、2人3人……とこのような奇特な活動をする輩を認めなければならなくなってしまうという論理も仕方のないことか。
普通なら「俺を選手にしてくれ!」なんて世迷い事を言いながらまとわりついてくる不貞の輩なぞは、黙殺されておしまいだ。だが、ながさわの活動はあまりにも悲壮だった。頼んでもいないのに「球団に認めて貰わなければ、作品を売ることはできない」とバカ正直に1円にもならない絵を描き続け、これ以上、発展の可能性がないにも関わらず、生活を犠牲にし、すべてをスワローズに捧げる姿は明らかにどうかしていた。
そんなながさわを見るに見かねて、球団職員がこのような忠告をしたことは、せめてもの優しさだったに違いない。