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21世紀はアンチ・ドーピングの時代?
MLBが本気で対策に乗り出した意味。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAP/AFLO
posted2013/08/03 08:01
イチローの同僚でもあり、今回の騒動で最大の“大物”、アレックス・ロドリゲス。
21世紀のスポーツ界は、ドーピングに対して「クリーン」であることが求められる。
自転車のロードレースでは、ツール・ド・フランスを7連覇したランス・アームストロングがドーピングを認め、競技自体のイメージに大打撃を与えた。
現在、ロードレース界がドーピング検査に本腰を入れているのは、競技自体の存続にかかわっているからだ。
自転車だけではない。
2008年まで、陸上短距離界に対する世界的な興味はかなり失われていた。2000年のシドニー・オリンピックで5個のメダルを獲得したマリオン・ジョーンズが禁止薬物を使用していたとしてメダルがはく奪されるなど、「作られた記録」が多くあることが発覚したからだ。記録保持者に陽性反応が見られても、誰も驚かなくなっていた。
そこにウサイン・ボルトが登場した。
短距離界は、お調子者であると同時に圧倒的な速さを持つスターの誕生で救われた。
しかし、ボルトが引退したら、どうなるだろう?
男子100mの商品価値はかなり失われるだろう(日本は別。これから日本男子スプリント界は国際競争力を強めていくはずだ)。
ドーピングは競技自体の魅力、存続に大きな影響を与えかねず、21世紀は厳格なドーピング対策を行う競技団体が生き残る。
大物選手にも手加減しないメジャーの本気度。
アメリカでは、報道をにぎわしてきたメジャーリーグのドーピング対策が大詰めを迎えている。
バド・セリグコミッショナーは、
「メジャーリーグはプロスポーツ界で、もっとも厳格な検査制度を誇っている」
と語っているが、これこそが21世紀のスポーツ界のリーダーシップのあり方を示している。
すでに2011年にナショナル・リーグのMVPを獲得したライアン・ブラウン(ブリュワーズ)が、シーズン終了までの出場停止処分を受けた。さらにアレックス・ロドリゲス(ヤンキース)をはじめ、10名程度の選手の処分が発表される見通しだ。
脇道にそれるが、ニューヨークのメディアによれば、ヤンキース側がARODの処分が重ければ重いほど給料を払わなくて済むので、重大な処分を望んでいる――そんな報道が出ていて、思わず笑ってしまった。今回の処分は球団の経営、戦力強化に大きな影響を与えそうだ。
いずれにせよ、稀代の能力を持った選手のキャリアに汚点を残すことになるのは間違いないが、メジャーリーグがドーピング対策に本気だからこそ、ARODは追い込まれている。
こうでなくっちゃいけない。
私はそう思っているし、ファンのメジャーリーグへの信頼度も増すだろう。