野ボール横丁BACK NUMBER
「野球は素晴らしい」と語る落合監督。
その“夢”はファンに届いているか?
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNaoya Sanuki
posted2010/11/01 12:00
「勝てばいい」という時代はもう過ぎ去ったのだ。
そのことを思うと、やはり中日の「罪」を考えざるを得ない。
勝てばいい――。
やはり、そんな時代ではないのだ。
勝つことが最高のファンサービスだという監督、落合博満の論法は一理ある。かつては、それが正しかった時代もあった。
だが、今の時代、ファンに振り向いてもらうためにはそれだけでは足りない。やはり、勝ち方は大事なのだ。
象徴的だったのは2007年、北海道日本ハムと争った日本シリーズにおける第5戦だった。
落合は、先発の山井大介が8回までパーフェクトピッチングを続けていたにもかかわらず、9回、山井を引っ込め、リリーフエースの岩瀬仁紀をマウンドに送った。史上初の快挙を目の当たりにする興奮は、そうしていとも簡単に奪われてしまったのだ。
あのときの割り切れない思いを今でも覚えている。
あの投手交代の瞬間、確かに中日の優勝を確信したものだ。勝負のためなら、あそこまで非情になれる落合の監督としての資質にも敬服した。だが、その一方で、何かを壊されたような苛立ちも覚えた。
それでも……中日ファンには本当に嬉しい「勝利」。
小さいころから熱狂的な中日ファンでもある中日担当の某新聞記者は、中日ファンの中にも私と同じような喪失感を味わった人がいたのではないかと言うと、こう反論した。
「なんで? ファンは何よりも強い中日を待ってたんだよ。かつて、中日の監督の中でこれだけ勝った監督はいない。誰よりも勝利の喜びを与えてくれた落合監督のことを恨んでる人なんていないよ」
そのとき、はっきりわかった。落合監督は確かにファン思いではある。でも、その対象は、あくまで中日ファンだけだ。決してプロ野球ファンではない。
あのシリーズ、プロ野球ファンは、中日が勝つことよりもおもしろい野球そのものを期待していたはずだ。
もっといえば夢を見たかったのだ。
あのとき壊されたもの――。それは、青臭い言い方になるが、プロ野球ファンの夢ではなかったか。
今シリーズの第2戦で大勝したあと、勝利監督インタビューで落合監督はこう語っている。
「野球は素晴らしいということをわかってもらうのが我々の仕事ですから」