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今年の都市対抗は“プロ注”が豊作!
ドラフト候補の実力派社会人選手たち。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/07/11 10:30
191cmの長身から投げおろす直球に、スライダー・フォークも持ち合わせるJR東日本・吉田一将投手。今秋ドラフトの動向が注目される右腕は、東アジア大会(10月開催)の代表にも選ばれている。
今年も7月12日(金)から、第84回都市対抗野球大会が開催される。全国から32チームが参加し、社会人野球の日本一を目指して熱闘を繰り広げる。
プロ野球において、そんな社会人野球出身選手の真骨頂は何かと問われれば、ドラフト3位以下で指名された者たちの頑張りだと答えたい。
1、2位の上位指名組がダメだと言うのではない。過去5年間では野上亮磨(西武'08年2位)、長野久義(巨人'09年1位)、榎田大樹(阪神'10年1位)、牧田和久(西武'10年2位)、十亀剣(西武'11年1位)、松永昂大(ロッテ'12年1位)たち上位指名組がチームの主力となって活躍している。牧田は'11年の新人王、長野は'10年の新人王、'11年のゴールデングラブ賞、'12年の最多安打と既にタイトルを3つ獲得している。
しかし、'08年以降の上位1、2位の占有率は、高校生42パーセント(50人)、大学生37パーセント(44人)にくらべ、社会人は22パーセント(26人)と遅れをとる。多くの球団は「上位指名で獲得するなら7、8年後にチームの屋台骨を背負うような大物感のある高校生、大学生を獲ったほうがチームのためになる」と思っているふしがある。
「7、8年後にチームの屋台骨を背負うような大物感のある選手」とは、たとえば菊池雄星(投手・花巻東→西武)、大谷翔平(投手&野手・花巻東→日本ハム)、藤浪晋太郎(投手・大阪桐蔭→阪神)、澤村拓一(投手・中央大→巨人)、菅野智之(投手・東海大浪人→巨人)たちだ。
ドラフトは科学的でなければいけない反面、“大物感”とか“スケール”とか曖昧な物差しで指名順位が決まることがある。
社会人は高校生、大学生にくらべると年寄りくさいイメージがありメディアでの人気も低い。スポーツ紙やテレビのスポーツニュースの扱いを見れば社会人野球の置かれている立場がわかるだろう。そういうイメージが先行しているため社会人は下位指名されることが多く、それにもメゲず奮起しているというのが現在の姿なのではないかと思っている。
地方大学が休・廃部が相次ぐ企業チームの受け皿に。
冒頭に書いた「社会人野球の真骨頂はドラフト3位以下の頑張り」という根拠を示そう。
◇'08年ドラフト
矢貫俊之(投手・三菱ふそう川崎→日本ハム3位)
攝津正(投手・JR東日本東北→ソフトバンク5位)
谷元圭介(投手・バイタルネット→日本ハム7位)
◇'09年ドラフト
清田育弘(外野手・NTT東日本→ロッテ4位)
大島洋平(外野手・日本生命→中日5位)
増井浩俊(投手・東芝→日本ハム5位)
◇'10年ドラフト
荒波翔(外野手・トヨタ自動車→横浜3位)
熊代聖人(外野手・王子製紙→西武6位)
◇'11年ドラフト
佐藤達也(投手・Honda→オリックス3位)
比屋根渉(外野手・日本製紙石巻→ヤクルト3位)
海田智行(投手・日本生命→オリックス4位)
嘉弥真新也(投手・JX‐ENEOS→ソフトバンク5位)
川端崇義(外野手・JR東日本→オリックス8位)
◇'12年ドラフト
井納翔一(投手・NTT東日本→DeNA 3位)
江村将也(投手・ワイテック→ヤクルト4位)
山中浩史(投手・Honda熊本→ソフトバンク6位)
下位指名にもめげず、元気いっぱいのプレーをしている社会人出身も多いことがわかる。以上16人の中で高校卒で社会人入りした選手は攝津、熊代、嘉弥真の3人だけで、あとの13人はすべて大学卒だ。13人の出身大学も見ると――矢貫・常磐大、谷元・中部大、佐藤・東海大北海道キャンパス、比屋根・城西大、川端・国際武道大、井納・上武大、山中・九州東海大というように、いわゆる有名大学卒ではない選手が多い。
大学球界は今年の大学選手権で上武大が優勝したように、地方リーグのレベルアップが目立つ。
親会社の業績不振で企業チームの休・廃部が続き、従来なら高校を卒業して企業チームに入っていたような有望株が地方の大学に入学することが多くなった。佐藤達也たちの活躍はそういう社会人と地方大学の新たな結びつきを再認識させてくれる。