詳説日本野球研究BACK NUMBER
今年の都市対抗は“プロ注”が豊作!
ドラフト候補の実力派社会人選手たち。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/07/11 10:30
191cmの長身から投げおろす直球に、スライダー・フォークも持ち合わせるJR東日本・吉田一将投手。今秋ドラフトの動向が注目される右腕は、東アジア大会(10月開催)の代表にも選ばれている。
「地方大卒の社会人」という苦労人がドラフトの主役に!?
長年、ドラフトの主役は高校、大学生が占めてきた。
'08、'09年は大田泰示、菊池雄星と高校球児の進路が騒がれ、'10年は斎藤佑樹、大石達也、澤村拓一の佑ちゃん世代の大学生、'11年は菅野智之、藤岡貴裕、野村祐輔の大学ビッグ3、そして'12年は藤浪晋太郎、大谷翔平と、怪物級の高校生が話題の中心にいた。
今年も昨年夏、甲子園で三振を取りまくった松井裕樹(桐光学園)という怪物左腕が高校球界に出現しているが、実は、豊富な人材、選手の多様性ということでは今年は社会人が久しぶりにドラフトの中心勢力を占めているのである。
投手は、東明大貴(富士重工業→日立製作所に補強)、浦野博司(セガサミー)、吉田一将(JR東日本)、石川歩(東京ガス)、吉原正平(日本生命)、秋吉亮(パナソニック)、加治屋蓮(JR九州)、菊地翔太(JR九州)と、ドラフト上位候補の名前がすらすら出てくる。
JR九州の加治屋と菊地以外は大学卒で、東明、浦野、石川、秋吉は地方リーグ、吉田(日大)と吉原(東京農大)は東都大学リーグと言っても2部リーグを主戦場にしてきた苦労人だ。ワンテンポ遅れてプロの注目を浴びるという社会人ならではの共通点がある。そしてそういう不運が不運として終わらず、反発力になっているところが彼らの魅力でもある。
過酷な社会人野球で揉まれた投手たちの高い実戦力。
実戦力の高さも社会人投手の魅力と言っていい。
高校生や大学生には「MAX150キロ」という冠がつくことが多く、それがマスコミ受けする原因の1つにもなっている。今年の社会人上位候補の8人も140キロ台後半から150キロに迫る速さがあるが、それだけではない。
たとえば、東明はストレートに加え、スライダーとフォークボールのキレ味が抜群で、'11年の関東地区大学野球選手権では東海大・菅野智之と屈指の投手戦を展開、2対1で退けている。あれから2年、さらに直曲球は鋭さを増し、今年の静岡大会では敢闘賞を受賞している。その東明ですら都市対抗出場を懸けた北関東大会を勝ち抜けず、日立製作所の補強選手に甘んじている。
社会人ナンバーワン投手と言ってもいい吉田(JR東日本)も都市対抗出場までは苦労した。東京大会の第2代表決定戦でセガサミーの浦野と投げ合い、1対2で惜敗しているのだ。速いだけではなくコントロールが安定し、四隅を突く変化球を備えても勝ち抜けない社会人野球の過酷さが、今季の2人を見ているとよくわかる。