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レスリングとスカッシュの一騎討ち!?
IOCが選ぶ五輪競技の“価値観”。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byHochi Shimbun/AFLO
posted2013/06/10 10:31
女子レスリング五輪三連覇中の吉田沙保里はIOC理事会が行われたロシアのサンクト・ペテルブルクにメダル持参で乗り込み、ロビー活動を行った。
レスリングのネックは、IOCの「体面」。
レスリングが中核競技から外れ、世界中から非難の声があがったが、IOCにとっては予測していた以上の反応だったのではないか。正直、私自身がオリンピックにふさわしくないと思える競技が残り、レスリングが外された。その時、
「IOCも大したことないし、分かってねえな」
という印象を持った。
強烈な巻き返しが図られているが、レスリングが正式競技として生き残る最大のネックは、IOCの「体面」にある。
いったん、中核競技から外したにもかかわらず、またも競技を実施するとなった場合、最初の判断はなんだったのか? ということを問われてしまう。
そこで必要になってくるのが、レスリングに一票を投じる「整合性」だ。要は、理屈。
レスリング界がIOCの意向を受け、女性理事を増やしたり、ルールを改正するなど適切な動きをすれば、
「レスリングは、IOCの理想にのっとり、競技団体として正しい方向に導かれた」
という理屈が完成し、IOCの体面も保たれる。
国際レスリング連盟が5月末に改革案を発表し、ジャック・ロゲIOC会長が記者会見で一定の評価を与えたのも、レスリングのオリンピックにおける「再雇用」に向けての地ならしのようにも見える。
もはや競技の「生殺与奪」権を持っているIOC。
オリンピックがこれだけ大きなイベントになってしまうと、現在のIOCは各競技の「生殺与奪」の権利を図らずも持っていることになっている。
ソフトボールの例を見ても、オリンピックの正式競技から外されると、ここまで報道機会、報道量が少なくなってしまうのか……と実感せざるを得ない。
IOCの権力の肥大化を責めるのは簡単だが、現実的に、各競技団体はIOCの意向に沿うように改革を進めていかなければならない時代になった。
背中を押されるような形で国際レスリング連盟は改革に取り組んでいるが、一方で、「一度外されてしまった競技を戻す必要はない」と考えるIOC委員がいても不思議はない。
そうした委員は、どういう投票行動に出るだろうか?