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じん帯断裂のストラスバーグ。
「トミー・ジョン手術」は大丈夫か? 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byGetty Images

posted2010/09/06 10:30

じん帯断裂のストラスバーグ。「トミー・ジョン手術」は大丈夫か?<Number Web> photograph by Getty Images

フォーシームのストレートで普段から150キロ台後半を出し、最速166キロを記録していたストラスバーグ。他にもツーシーム、チェンジアップ、カーブなども使いこなす変化球投手としての一面も持っているという、万能型の好投手である

 今季、100マイル(約160キロ)以上のストレートを投げ、デビュー当初は話題をさらったストラスバーグ(ナショナルズ)が、9月3日、「トミー・ジョン手術」を受けた。

 フィリーズとの試合中、右腕に違和感をおぼえたストラスバーグは右肘のじん帯断裂と診断され、手術に踏み切ったのである。この手術によって今季はおろか、来季も絶望となり、復帰は2012年シーズンと見込まれている。

 逸材だけにこの離脱はなんとも惜しまれる。日本の報道では選手生命が危ういといった論調が見られないでもないが、現地アメリカでは意外と楽観視されている。

 なぜか?

「トミー・ジョン手術」とはどんな手術なのか?

「トミー・ジョン手術」とは、トミー・ジョンという左腕投手が1974年に医師のフランク・ジョーブによる執刀を受け、その後、投手として見事に復活したことから定着した名称である。

 私がメジャーリーグを見始めたとき、トミー・ジョンはドジャースの投手でスマートな投球を見せる知性派の印象を受けた。

 じん帯の移植手術は当時の最先端技術だったから、人気になっていたドラマ「バイオニック・ジェミー」(リンゼー・ワグナー主演)をもじって、「バイオニック・トミー」とニックネームを付けられていた(その後、私は彼がライバルとも言えるヤンキースに移籍したことでさらなる衝撃を受けるのだが)。

“サンデー兆治”も受けたこの手術は、野球史も変えた。

 ジョーブ博士によると、1970年代にはこの手術は極めてリスクが高いものだったという。選手として復帰する確率はわずか1%と言われていたが、トミー・ジョンは1989年の46歳まで現役を続けられたことで、この手術の有効性が証明された。

 手術の信頼性が高まるにつれ、アメリカだけでなく、日本でも肘にメスを入れる投手が続いていくことになる。

MLB……AJ・バーネット(ヤンキース)、クリス・カーペンター(カージナルス)、ライアン・デンプスター(カブス)、ティム・ハドソン(ブレーブス)、フランシスコ・リリアーノ(ツインズ)、カール・パバーノ(ツインズ)、アーサー・ローズ(レッズ)、マリアーノ・リベラ(ヤンキース)、ラファエル・ソリアーノ(レイズ)、ビリー・ワグナー(ブレーブス)、田澤純一(レッドソックス)

NBP……村田兆治、荒木大輔、桑田真澄

 日本では村田兆治が手術から復帰した1985年、「サンデー兆治」として毎週日曜日に登板し勝ち星を積み重ねていった。最終的には17勝をマークしたことで、日本でもこの手術への信頼性が高まったことは見逃せない。

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