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じん帯断裂のストラスバーグ。
「トミー・ジョン手術」は大丈夫か?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2010/09/06 10:30
フォーシームのストレートで普段から150キロ台後半を出し、最速166キロを記録していたストラスバーグ。他にもツーシーム、チェンジアップ、カーブなども使いこなす変化球投手としての一面も持っているという、万能型の好投手である
トミー・ジョン手術を受けると、球が速くなる?
もちろん、医学の進歩も重要な普及要素なのではあるが、アメリカではトミー・ジョン、日本では村田兆治が勇気を持って手術を受けたことが、その後の野球界の歴史を変えたともいえるのである。
手術の安全性が担保されるにつれて、肘にメスを入れるという恐怖は過去のものになりつつある。しかし、実際に手術を受ける投手たちは「本当にマウンドに戻れるのだろうか?」という不安をぬぐいきれるものでもない。
しかしそんな選手たちをマネジメントするアメリカの球団首脳陣の間では、最近の傾向として「トミー・ジョンを受けるなら若いうちに」という考え方が支配的になってきているのである。
その理由として大きいのが、手術を受けてから完全に復活する割合が2009年の統計では、85~92%にまで上がっているからだ。「もはやトミー・ジョン手術はリスクではない」という考え方が一般的になってきたのだ。
さらに早めの手術を推奨するのは、トミー・ジョン手術を受けると球速がアップするというのが通説になってきたからだ。球速にして2~3マイルというから、3キロから4キロくらい速くなるケースが見られるというのだ。
周到なリハビリ・スケジュールが投手をさらに進化させる!?
なに?
肘にメスを入れたのに、球速がアップすることなんてあるのか?
と疑問に思う人が普通だろう。
実は、じん帯を移植したから腕が強くなるというのではなく、リハビリの過程で体全体が強化されるからそれに伴って球速も上がっている……という見方が強い。
トミー・ジョン手術をした後のおおよそのリハビリ・スケジュールでは、利き腕が普通の生活に支障なく動かせるようになるまでに2カ月かかる。その時点から、ようやく軽めのウェイト・トレーニングをスタートさせることが可能になるのだ。
その後の4カ月間で徐々にウェイトの重さを加えていくのと同時に、腕全体を強化するための様々なトレーニングも並行して始める。
そして日常生活や通常の運動ができるまでに回復したと判断された時点で、やっとボールを投げる段階に移行していくわけだ。通常のリハビリ・スケジュールからすると、おおよそ手術から1年後には公式戦のマウンドに立つことが可能になると言われている。