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伊東監督の冒険采配でロッテ快進撃!
今こそ進言したい次代のチーム作り。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/05/31 10:31
伊東監督は若手を大胆に抜擢するなどチームを変革させ、低迷が続いていたロッテを今季、見事に復活させた。
育成枠、ドラフト下位指名の若手の実力を見抜いた慧眼。
特筆されるのは西野、江村の抜擢である。まず、'08年のドラフトをおさらいしよう。
1位木村優太(投手)、2位長野久義(外野手)※入団拒否、3位上野大樹(投手)、4位坪井俊樹(投手)※'11年限りで退団、5位山本徹矢(投手)、6位香月良仁(投手)。
これに対して即戦力の期待がない育成ドラフトでは5位西野、6位岡田幸文(外野手)という指名を行っている。岡田は昨年までの2年間、ゴールデングラブ賞を受賞している。主客転倒という四字熟語がぴったりの逆転現象で、育成組のその後の活躍が'08年ドラフトの失敗を補ったと言っていい。
西野は昨年まで背番号131をつけていた。「MAX147キロ」と紹介されることが多いが、私が見た4月23日の西武戦では141キロが最速で際立っていない。よかったのはコントロールで、与えた四死球は四球1つだけ。体を開かずスライダー、カーブ、フォークボールを丁寧に低めに集めるピッチングは、西武黄金時代における東尾修を思わせた。伊東監督の好きなタイプと言っていい。
短所には目をつぶり、長所に着目するのが伊東監督の育成。
江村は西野の2年後輩で、'10年ドラフトの5位指名で入団している。バッティングはまだひ弱いが、断然際立っているのは強肩。捕手のディフェンスはリード、キャッチング、スローイングの3要素で成り立っているが、江村はそのうちのスローイングがいい。
イニングごとに行なわれる投球練習の最後に、捕手は二塁阻止を想定したスローイングを行なう。プロはアマチュアのようにこのイニング間のスローイングを全力で行なわないが、江村は知名度がないため肩の強さを相手チームに見せておく必要がある。
西野が先発した4月23日の西武戦でスタメンマスクをかぶった江村は1回のイニング間から攻撃的な二塁送球を行ない、私のストップウォッチは1.87秒を表示した。ちなみにこの「1.87秒」は、今年球場で見たプロ18試合の中では最高のタイムである。この強肩を見せることによって、相手ベンチは機動力を使った作戦を立てにくくなる。逆に自軍投手陣にとって江村の肩は精神安定剤になり得る。経験のなさには目をつぶり、「強肩」という部分に着目した伊東采配が実らせた果実と言っていい。