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北嶋なき柏レイソルを背負う2人のFW。
工藤壮人と田中順也、急成長の理由。
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byAFLO
posted2013/04/26 12:35
大黒柱、北嶋が抜けた穴を工藤壮人(右)と田中順也が競うように埋めている。ACLとJリーグの二正面作戦をレイソルが突破できるかは2人の若者にかかっている。
今季の急激な成長ぶりを工藤はどう考えているのか?
ある日の練習後、工藤を呼び止めた。
――こちらが見ていて感じる変化を自身でも感じていますか?
「そうですね……毎年少しずつ出場機会が増えて結果を求められるようになる中で、例えばポストプレーもそう、ゴール前の落ち着きもそうですけど、一つひとつのプレーの精度を上げてミスをなくすことについては強く意識しています」
――精度は意識で変わるもの?
「変わると思います。客観的に見て、チームメートがFWに求めるプレー、つまり『ここで(ボールを)取られてほしくない』と思ったり『キープしてほしい』という場面でのつまらないミスというか、相手に奪われる回数が非常に少なくなったと思います。しかもそれが、チームとしての攻撃に厚みを持たせることになるし、バリエーションにつながっていると思うので。そういうところは、昨年より改善されていると思います」
優等生だが“カタブツ”ではない、長谷部誠のようなキャラクター。
明らかな“質”の向上、というより変化を感じたのが、4月6日に行なわれた第5節名古屋グランパス戦だった。
2-2で迎えた63分、カウンター気味の攻撃でパスを受けた工藤は、小刻みにボールを押し出しながら縦に仕掛け、対峙する田中マルクス闘莉王をドリブルでかわして左足でゴール。どちらかと言えば点で合わせるスタイルを特徴とする工藤が、約20メートルもの距離を独力で突破したこと、何よりその判断に躊躇がなかったことに驚いた。
――名古屋戦のゴールは正直、驚きました。
「ああいう状況で自分で仕掛けてゴールを取るということは、確かに、自分のプレーの幅が広がっていると感じる部分ではあります。自分で仕掛けて崩せるという自信もつきましたし、対峙する相手に対してドリブルで向かっていける、その結果としてゴールが奪えるということは、自分が成長していると実感できるところではあるかもしれません」
――しかも、今季はそうしたシーンが見られたのはあの試合だけじゃない。もう体に染み付いているのでは?
「ああいう局面でボールを受けたFWが、一人で打開できるんだったらそれに越したことはないので。自分が相手を一人はがせば、他の選手がフリーになれる。そうすれば攻撃の選択肢も増える。だから僕個人としては、ボールを持ったらなるべく前を向いて勝負したいという気持ちはありますね」
こちらの目を見て、言葉を選びながらじっくり話す姿勢は、相変わらず年齢に不相応と感じる彼のキャラクターであり大きな魅力だ。
いわゆる優等生だが決して“カタブツ”ではなく、愛されキャラでもある。日本代表の長谷部誠に近いキャラクターの持ち主と言えば伝わりやすいだろうか。だからおそらく、不意にキャプテンマークを託されても“収まり”がいい。もう少し時間が経てば、工藤もまたそんなタイプになる気がしてならない。