メディアウオッチングBACK NUMBER
W杯をより興味深くした、
ブログやツイッター解説。
~映像の「演出」に要注意!~
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byHanae Miura
posted2010/07/17 08:00
スカパー!の田中晃氏による「きょうのオシムと世界標準」ブログ。箱根駅伝や世界陸上、トヨタカップなどのスポーツ中継を指揮してきたプロの目から見た中継批評。大会期間中ほぼ毎日更新されていた
自分がスポーツ情報番組に出演する立場になってから、ひとつひとつの映像の「意味」を考えるようになった。
私は事前の打ち合わせで、球場でのユーモアあふれる映像をリクエストする場合がある。それはアメリカの球場で野球を見ることは、楽しい体験だということをメッセージとして発信したいからだ。
つまり、テレビで流れる映像には必ず意味が込められている。
それはスポーツの生中継も例外ではなく、今回のW杯ほど映像の持つ意味合いを考えさせられたことはなかった。そのきっかけとなったのは、スカパー!でW杯のプロジェクト統括を担当した田中晃氏の「きょうのオシムと世界標準」というブログを読んだからである。
田中氏は日本テレビ在職中、箱根駅伝、世界陸上などの企画にたずさわった経験を持つ。このブログは「W杯のスポーツ中継批評」なのだが、プロがプロを評価する滅法面白い読み物になっていた。
田中氏はW杯の映像を作った7人のディレクターのクセを読み取るのだが、作り手によって試合という物語の紡ぎ方に違いがあることを看破する。以下の文章に登場するディレクター、シュトラウプがドイツ人、ビデックスがフランス人だということを知って読むと、面白い。
今大会、審判への不信は映像によって増幅されていた!
「シュトラウプの映像がセンテンスで構成されているとすれば、ビデックスのそれは、形容詞と感嘆詞だけの構成だ。早いスイッチングで目の前のアクションをたっぷり見せるのだ。ここまできたら、スポーツ中継に対するフィロソフィの違いだ。地上波でも日本テレビとテレビ朝日が相当違うように」
丹念にセンテンス(起承転結や伏線と言っていいかもしれない)を積み重ねていけば、中継番組で人の気持ちを揺さぶることが可能なのだ。PK戦ではW杯の国際映像よりも、高校サッカーの方が優れているという見立ても面白い。
また、田中氏はドイツ対イングランド戦の誤審以降、ディレクター陣が審判に対する不信感を募らせ、判断の難しい微妙な判定があった場合、その後に審判のアップを映し出すことが多くなったと指摘していた。ディレクターは審判の映像を世界に配信することで、「誤審では?」という無言の批評を加えていたのだ。そう考えると、審判への不信は映像によって増幅されていることになる。
また、スカパー!はW杯期間中に様々な試みを行なっていて、試合と同時進行の「オシム解説ツイッター」はテレビの解説とはまったく違い、審判への自由な批評を含め、新鮮さがあった。将来はデータ放送にツイッター的な解説が展開できそうだが、ドイツ対アルゼンチン戦ではオシムが内省的になり、あまりつぶやかなかったので商品化した場合の安定性にはまだ疑問が残る。