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歴史に残る“栄誉ある”敗北――。
ドネアに完敗した西岡利晃の偉業。  

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2012/10/15 11:20

歴史に残る“栄誉ある”敗北――。ドネアに完敗した西岡利晃の偉業。 <Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

「やるだけのことはやった。でも今は悔しいだけ」と試合後に語った西岡。今後について本人は「まだ分からない」とコメントしたが、帝拳ジムの本田明彦会長は「勝っても(現役は)終わりのはずだった。本人も納得していると思う」と引退を示唆した。

日本人は日本でしかタイトルマッチをしないのか?

 これまで多くの日本人チャンピオンは国内でしか防衛戦を行わなかった。

 それ自体が悪というわけではないのだが、世界のボクシング事情は大きく変化している。タイトルの増設に伴い世界王者の数は増え続け、それぞれの地域で世界タイトルマッチが継続的に成立するようになった。その結果、日本で世界チャンピオンの称号を得たとしても、海を越えればボクシング関係者の間ですら“無名”という、当のチャンピオンにも、ファンにも、心中複雑な事態が日常化してしまった。

 西岡は戦前の取材でこう口にしていた。

「日本のボクサーは、向こうの人たちに名前を覚えてもらうためにも海外に出たほうがいいと思う。そのためにも海外での試合は大きな意味を持つ」

階級を越えた無類の強さを持つスーパースター、ドネアへの挑戦。

 同じように本場で実力を証明したいと思っている日本人チャンピオンはたくさんいた。それぞれがそれぞれの事情でそうした冒険を実現できない中、パイオニアとして道を切り拓いたのが西岡だった。ドネア戦の会場には徳山昌守、佐藤修、石田順裕、名城信男といった日本で世界のベルトを手にした面々が駆けつけていた。彼らの思いを西岡は十分に感じていたことだろう。

 そして西岡が拳を交えたドネアは、パウンド・フォー・パウンドを選ぶ際に必ず上位に名前が挙がるスーパーバンタムの最高峰なのだ。

 いわば西岡は富士山に登って満足するのではなく、果敢にエベレストの頂を目指し、そして敗れ去ったと言える。敗北という結果によって、勇敢なチャレンジそのものが色あせることは決してない。

 今回のビッグファイトを観た多くの者が、あらためて本物の世界チャンピオンの実力を知り、勝者に対して強い尊敬の念を抱いたことだろう。西岡のビッグチャレンジには大きな価値があったのだ。

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西岡利晃
ノニト・ドネア

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